2022年12月25日日曜日

未来 The Future

 

  ――記憶を調整しなければならないらしい。――「あいつらはなんなんだ?」メガネのビル、――「ファンタシーの世界だな。」金髪のウィル、――「俺たちは夢を見ているだけだ。」ブラウンの髪のチャック、それはどうにでもなるということ?――彼らは若い。――「どうにでもなる。」丸刈りのビリーは言った。――4人は異世界に転送され、そしてインにいる。これから朝食だ。主人はボウルを4つとミルクの入った大きなピッチをひとつ、さらにコーンフレークの箱をふたつ、スプーンを4つ、それらを卓にドン!と置くとまた引き返す。そして椅子に腰かけ、新聞をまたバサリと広げた。――「…あいつ耳長え。」チャックは言った。

  コーンフレークの箱には「ドラゴンの餌」と書かれてある。――「で、どうする?」ビル、――「職探しだろ?」ウィル、――「どうにでもなる。」ビリー、ややうんざり。そして彼らは19世紀と21世紀の中世にいる。――「トーナメントがあるって言ってたぞ?」ビル、ドラゴンになろう。――「誰が?」ウィル、ミルクをよこせ。――「あいつだ、昨日ちょっと話した。」見れば主人は新聞のページをめくる。――「…なんで怒ってんだ?」チャック、――「戦争じゃないか?」ビリーは言った。――ロンドンはテンプル騎士団のバナーであふれ返っている。新聞とタブレットが同時にある中世、ドラゴンは空を飛び、船も同様、そして十字軍も同様だ。

  主人は朝からウィスキー――そして肉を喰わせろ。――「で、どうする?」再びビル、コーンフレークに乾いたベリー、それを口に運ぶ。――「ドラゴンになるか?」ウィル、――「王さまになんのか?」チャック、――「行先は教会じゃないか?」――唖然?しかし真理らしく思われたので、ビリーは言った。大胆な言葉はしかし、友だちの様子を窺う。――そうだ、彼らはテンプルのテンプル教会に一度集められた。イングランド王室は彼らの所持金をすべて交換してくれた。物価は21世紀の大体29分の1、ジョブセンターに登録すれば失業手当がさらに出る。このインはロンドン市の手配による。彼らは皆、かなりよく保護された。

  ――彼らはフーリガン。――「軍隊か…。」ウィルは反芻する。そして彼らは「愛国者」でもあるのだろう?――「おい、待てよ、十字軍だろ?――どこ行くのそれ?」チャックは言う、凝った芝居?――「エルサレムだろ?どこだよ、それ?」それとも不安?――「遠いぜ…。」チャックは言った。――ミルクをこぼすな。――「…面倒だけどさ、1回ジョブセンター行こう。」ウィル、そうだ、反対されれば固まる意識は世のなかにある。――「そうだ、俺たちのカネもいつかは尽きる。俺たちは結局、なにか仕事を探さないと。」ビリーは言った。――そのころ、エミールは自宅のドラゴンに餌をやる。――「あれ、どうしたの?」ピエールは驚く。

  大きな桶にコーンフレークを入れる。――「気まぐれ。」――「…なんかあった?」ピエールはエミールの従弟、手伝いに来ている。――「別に。」簡素な会話、そしてエミールは奇妙な暗がりにいるかのよう。――くだものにミルク、さらに砂糖。――「戦争はあいつらがやればいいんじゃない?」ピエール、――「…別に、俺は行かない。」エミールは実に大地主、彼の農園では知りあいが何人も働いている。――縁故主義は彼らの基本。――「タイミングはよかったけど、結局はメシのお話だろ?」――自然、それは反自然の基本にもなる。ピエールはしかし感づいていた。――「シャルルマーニュはおそろしく元気がいい。」――彼は権力者だ。

  彼らの住むここはブルターニュ、「ケルト的周辺」であり、大昔はほとんど農業をしなかった。彼らは牧畜で生計を立てていたらしい。――「アメリカがもうダメみたいだから、あいつなにかするかも。」――「…いや、話しあいだよ。」――嘘だろう、しかしエミールは言った。――「あいつはヤバい、あいつは皆殺しばかりだ。」――そのとおり、ピエールは言った。――ところでこの土地は誰あろう、ランスロット公の領地、そのすぐ東側は誰あろうローランの領地、そしてランスロット公は諍いをさけるため、シャルルマーニュにも形式的な忠誠を誓っている。しかしランスロット公はシャルルマーニュに税を納めているので、軍役の義務を持たない。

  シャルルマーニュは社会システムを進化させている。――「まあ、あのシャルルマーニュは少しばかり新しくて、シャープだとは思う。」ピエールは言う、――「でも血を噴いて人が死ぬのを見るのは、相変わらず大好きだと思う。」――「…戦士なんて、そんなものだよ。」――彼らはピグマイ、小心で働き者だと考えられている。多くは農民、酒造や商人をしていることもある。――住む世界が違う?――「いやだから、俺はなにもしないって。」エミールは立ちあがる。彼のドラゴンは大人しく、ベジタリアンの作法は有効らしい。それはどうも迷信ではない。――「ただ俺たちの信仰がこの先どうなるのか、少し気になっただけ。」エミールは言った。

  ――ドラゴンの標準行軍速度は時速60キロ、馬のそれは時速6キロ、どちらも2時間行軍して30分休む。ドラゴンの最高速度は時速120キロ、馬のそれは時速60キロ、最高速度でドラゴンは16分、馬は5分、それぞれ行動できる。――「大敗だな。」ピンストライプのスーツ、口ひげのウィリアムは新聞の一面をようやく見た。相棒はテンプル騎士団のパンフレットを読んでいる。――株式会社テンプル騎士団?――「ここから先は茨の道だな…ふむ。」ウィリアムはページをめくる。――空飛ぶ船の最高速度は馬のそれとほぼ同じ。空飛ぶ船は「魔法石」の力で動いており、12時間に1回補給。――「…まあ、白けるだけだ。」

  大きな声では言わなかった、ツイードのジャケットの彼はチャールズ。――「…見ろ、俺たちだ。」ウィリアム、彼らのニュースがある。――「異世界からの来訪者、総計9652人…ふむ、そんなにいたか?」そしてこの世界の住人は特に驚かない、小さな記事だ。――「俺たちはきちんと帰れるのかな?」チャールズ、――「さあ、知らん。」ウィリアムはページをめくる。――ここはイーストエンド、ジョブセンターにふたりはいる。シティ・オブ・ロンドンの市壁は完全、彼らは初めて見た。エミレーツ・スタジアムも完全、アーセナルFCもあるという。そしてジョブセンターにはテレビ、エアコン、蛍光灯、そしてテンプル騎士がいる。

  テンプル騎士団のための特設コーナー、そこには木偶人形のテンプル騎士、鎖帷子にチュニックを身につけ、ロングソードと盾を持つ。さらにエルサレムの写真、ドラゴンの写真、そしてテンプル騎士団の空飛ぶ船の写真と精巧なミニチュア、そして給与や年金などの雇用条件がでかでか。――カウンターの向こうには年老いた本物のテンプル騎士がひとり腰かけている。――「西暦1187年。」ぼそりとウィリアム、新聞の端を見せる。――「まあ、そうだろうけど。」チャールズ、そして彼の眼が気になった。――年老いた彼はなにか希うような眼をして、こちらを見ていた。チャールズはちらと見て、もう眼を合わせられない。

  ――どうする?――「ドラゴンはきわめて有力な戦力であり、ほとんど唯一の実効的な空戦力である。」お父さんはパンフレットを読み、タオルで汗をぬぐう。――水を一口。――「これが教えに違反する?」――「ええ、そうです。彼らは本当に真面目です。」ガラハッド公、別に疲れていない。――剣の交わる音が小気味よく響く、ダンスのよう。――「魔法は「神の奇跡」として問題がないということになっています。」ガラハッド公――と、剣の交わりに火花が生じた。――「それでもドラゴンには問題がある?」――「そのようです。」パーシヴァル公とベディヴィア公は剣を交わす。――「ふむ…それはまあ、呑気だ。」また水を一口。

  ――訓練である。アーサー王はロングソードを上手に使えるようでなければならない。ふたりが少し目配せをしたのがお父さんには見えた。――お父さんは真剣に観る。それは形の確認だろう。上段、下段、中段、腰から腕、柄の握り方、いろいろとコツが要るらしい。――「あれはかなり役に立ちます。」ガラハッド公は言う、――「この世界、屍体は平気で動くのです、大陸の彼はそれで成功したのです。」――するとどうだろう!ふたりの剣が火を噴いた。――「魔法の訓練もしなければなりません。」ガラハッド公、――「…皆、できるのか?」――「はい。」――これはハリー・ポッターの世界?しかしお父さんは訓練をしなければならない。

  ――グレートウェールズという謎の国、それはおよそカナダである。ここはウォータートン湖のほとり、旧覇権国のすぐ北にある。この土地はすべて宙に浮いている。天空に浮かぶこの土地はとても涼しい。最も優れたドラゴンを育てているのはこの土地であり、最も強力な空戦力を誇るのもこの土地である。この土地にはおそらくひとつの国がある――しかし常備軍がない。貴族はそれぞれ領地の所有者だが、自治体の所有者ではなく、その長でもない。多くのことは議会が決めて運営しているが、軍を統帥するのは彼らである。――中世、のようなもの。そして王領は少しだけあり、永らく「霊的な王」が君臨していると考えられていた。

  ――その「彼」はどうも受肉する。――「嫌な予感がします。」――稲光、イングランド女王メアリⅠ世。――「お話が優れて神話的になりそうな予感がするのです。」彼女の夫はアラゴン王アルフォンソⅠ世。――「気になさることは特にはないと思います。」ペンブルック伯爵、円卓の騎士、今はテンプル騎士でもある。――「陛下はいつも、おひとりではありません。」――「…ええ、そのとおりです。」――稲光、それは決まりきった台詞だ。そして気になることは山のようにある。――「あの人たちはムスリムと取引していますね?」女王は言う、――「ドラゴンを輸出しています、大変な懸念ではありませんか?」駒を動かす――キングはここ。

  ――「はい、シャルルマーニュを牽制しているのです。」伯はひどく冷淡、――「アメリカが亡びてしまいましたから、仕方がありません。」――カソリック、それは単なる名辞だろう。「普遍」の実体はもちろん権力である。――権威ではない。――「わたしたちはしかし今、十字軍をやっています。」――「彼らが、やっています。」――稲光、伯の顔を照らす、ナイトはここ。――「陛下はいつも陛下ですから、安泰です。」そして王配は今、キリスト教の名のもとに戦争をしている。息子の名はリチャード。――「そういえば息子が十字軍に興味を持っていました。」メアリⅠ世は言う、――「英雄になるつもりなのでしょう。」ワインを一口。

  ――不気味?――「あまりお勧めできません。」ペンブルック伯、ふと、メアリⅠ世は考えた。――「彼らを消耗させるための争いですか?」本当に気持ちが悪い。教皇庁はやはり敵なのだろうか?――「国民の関心(ナショナル・インタレスト)を反故にするわけにはいきません。」伯は言う、もうすぐステイルメイト、その確率が高い。――「政治学です。」――本当に気持ちが悪い、メアリⅠ世はそう思う。――そしてネイションが発生しつつあるのだろう。誇大な関心がそれを産むのだろう。それは共同体であり、終極論だろう。――「彼が常備軍を組織しつつあることは懸念です。しかし戦については間違いなく矛盾だと思います。」メアリⅠ世――ビショップはここ。

  ――「…ええ、勝利には、さらなる勝利の予感がつきものです。」――駒を動かすべきか?伯は考えた。――「どこまでも行こうとして、彼らが朽ち果てるならそれはそれ、われわれは、賛成も反対もいたしません。」女王はそして奇妙に感服した。――しかし顔が石になる。――「理由については、分からないことではありません。」メアリⅠ世、時の流れは人を砂にする。――「はい、古代からファンタシーは政治に深く関わっており、誰もがそれを尊重すべきです。」ペンブルック伯、熟慮したが結局、駒を動かす――ビショップはここ。――「…ええ、よく分かっております。」そしてメアリⅠ世は、その事実を認めた。普遍はファンタシー?

  ――雷雨がやんだ。蒼空が顔を出しはじめた。2匹のドラゴンが兵士を乗せて空を飛ぶ。ジョブセンターから出てきた彼らはそれを見た。――「おお、きれいだな。」ビルは言う、2匹の白いドラゴンは豪奢な赤い衣装を身につけていた。――「おい、なんだあれ?」ウィルは指さす。――それは大きな空飛ぶ船、大きなお腹には大きなテンプル十字が描かれている。――なかなかの低空飛行。――「王宮へ行くのかな?」ビル、――「俺たちの行先はスタジアムだ。」チャックは言う、エミレーツ・スタジアムも募集をかけていた。――平和が一番。

  しかし彼らもまたテンプル騎士団のパンフレットを持っている。――「あいつはさ、もう出兵しないのかな?」ビル、年老いた彼といくらか話した。――「さあ、もう年金暮らしじゃないか?」ビリー、――「年金暮らしは悪くないね。」と、ウィルはパンフレットを見る――表紙にはドラゴンに乗って空を飛ぶテンプル騎士の絵。――「なあ、こいつは悪魔なんだぜ?」チャック、――「分かってるよ、理由ってんだろ?」ウィル、――「言葉なんかどうにでもなる。人間は…追いつめられれば変わる。」そしてビリーは、少しばかり真面目な顔をしていた。――そして彼らネイションもまたファンタシーなのだろう。ネイションは聖職者に近い。

  そしてネイション・ステイトもまた、教会のように振る舞うだろう。

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