2021年2月1日月曜日

厨子王 第一幕/第一場~第三場

 第一幕

 

第一場――王城

 

 

 

――地獄の車輪。

悪魔・フランソワ「下らない虫がな、あの連中を殺している。何でも儲けが悪いらしい。あの連中には何のアイデアもない――あれを仏教徒というらしい、頭の中は見事にスカスカだ。儒教徒でもあるらしい――先験的命題のマシーンにもなるらしいが、どうなることやら?」

悪魔・シモーヌ「しかしわたしたちには何の関係もない。あの連中がいくら死のうが、わたしたちには何の関係もない。」

フランソワ「――国際問題のことは気にしなくていい?」

シモーヌ「そういう問題ではない。」

フランソワ「そういう問題でもある――われわれは貨幣のしもべだ。あの連中は行きずりで不安神経症にもなる。それよりもまあ、面白いことのほうが重要だがな。俺たちが一人前の人間であるからには、他人の不幸はこちらの幸福、その逆もまた然り――要するにそれは俺たちが神だからだ。俺たちが神をやめるならさて、どうなるか、ちょっと面白いと思わないか?」

シモーヌ「・・・しかし費用がかかる。」

フランソワ「それはその通り。」

葉巻を燻らす。

フランソワ「しかしわれわれは自然に逆らえない・・・そのように出来ているのだ。」

シモーヌ「それでは神に近づくこともできない。」

フランソワ「――その通りだ。」

満面の笑み。

フランソワ「理性に違反するすべては神に近づく――神とはそういう生き物だし、要するに不可能だ。そして俺たちの理性を試すのだ。――何、一人前の神さまに一人前の奴隷、俺たちの昔気質はそこかしこ生きている。人間が最悪の生き物だから、あの連中もまたああなるのだ。尤もあの連中の神さまは野ざらしの無能力、放っておいても破滅する・・・お話はそうなっても、よいのだがな。」

葉巻のけむり…。

フランソワ「まあ、何でもよい――面白ければ、それでよいのだ。」

 

 

 

 

 

第二場――海辺

 

 

 

――草むら。

蛙・道順「あいつらはまだ生きてるよ。」

風がひとすじ。

蛙・弥左衛門「どこから攫われて来たんだっけ?」

道順「どこか遠いところだよ、詳しくは知らない。」

――怪生、変化を所望?

道順「あいつら何かもらってんのかい?」

弥左衛門「メシぐらいじゃないのかい?」

道順「どうせ世のなか、もう終わりだよ。」

弥左衛門「あいつらも終わりだ、奴婢だからね。」

――怪生…。

道順「…盗人ってわけじゃないだろうにさ。」

弥左衛門「まあ、まあ、そうではあるけど。」

――変化。

道順「もうはらわたが煮えくり返っているから、そろそろその時だと思う…何、人生なんて一回きりだからね、砕け散ってどこかへ飛ぼうが、お天道さまは知らぬ存ぜぬ、何も起こらなかったに等しい。――娯楽の華になるってのも、まあ、中々面白いことだと思うね。」

弥左衛門「…あいつらを殺せ?」

道順「まあ、あいつらは無邪気だからね。阿呆にはつける薬がない。」

弥左衛門「――それは莫迦にだ。」

道順「莫迦ってのは儲けられない奴だよ。あの猿どもは儲けてるじゃないか?」

弥左衛門「薄利でちびちびだけどね。」

――草むら、風が吹く。

道順「あいつらにはやっぱり能力がないよ。」

弥左衛門「才能がないんだ。」

道順「似たようなものさ、頭の中がスカスカなんだろ?」

弥左衛門「まあ、それで何も分からないんなら、それはそれじゃないか?あいつらはいくら殺そうが痛がりもしないし、痒がりもしないと思うね。――呑気なものさ。娯楽のお化けでも、どこかに現れないかな?」

――風。

道順「…ぼくたちは自然だ。」

――憂鬱?

弥左衛門「…そうだとも、でもそれには費用がかかるよ。」

――風、現世は強がりと欲ばり。

道順「娯楽の費用ぐらい、ちょっと積んだっていいんじゃないか?――あいつらが血しぶきを上げて死ぬのは、面白いことだと思うけどね。」

――風、夢見がちは計画ばかり。

道順「・・・どうする?」

――風…。

弥左衛門「・・・ちょっとだけだよ。」

道順「――そうだ、ちょっとだけさ。」

そして蛙二匹、大地に唾を吐く。

道順「まあ、恥さらしには、いい薬になる。」

――意識を集中・・・。

 

 

 

――稲妻!

安寿「……。」

海の向こう、一瞬見えた。

小萩「…どうしたの?」

――謎。

安寿「……。」

小萩「…何?」

小萩、安寿に歩みよる。

小萩「ねえ、どうしたの?」

安寿「…変なものがいる。」

 

 

 

――海より。

悪魔・フランソワ「案外、早かったな?」

悪魔・シモーヌ「お前が考えたから。」

フランソワ「それはまあ、自然の一部だ。」

燕尾服にドレス。

フランソワ「しかしまあ、自然の摂理とはこういうものか。相変わらず驚かされる。」

シモーヌ「どうにでもなる。」

フランソワ「費用がかかると言ったのについてくるのもいるし。」

シモーヌ「仕方がない、これも自然だ。」

フランソワ「そうだとも、自然は生命の源だから、ある時は神を憎み、ある時は神を愛する…まあ、気まぐれな奴で。」

シモーヌ「どこかに在ればそういうことだ。――しかし・・・、」

辺りを見やる。

シモーヌ「どこにでもある土地といえばそれきりだ。ほとんど未開、ほとんど何もない。」

フランソワ「もちろん、それは神の禍、神なきところ、動物ばかりとな。」

シモーヌ「では理性は動物なのだ。」

フランソワ「そういうこともある…さて、塞ぎの虫はどこかな?」

 

 

 

 

 

第三場――山

 

 

 

――明らかな謎。

厨子王「(大体、何ですれっからしなんだ?あいつらはどうなっている?)」

――芝刈り。

厨子王「(明らかに仕入れすぎている…どうしてこんなに人を?)」

――芝刈り。

厨子王「(しかも与太者やチンピラばかりだ、どいつもこいつも…。)」

――厨子王、何を思いやる?

厨子王「(俺もそのうち同類になるのだな?――所詮、すれっからしの芋の中だ。)」

 

 

 

――草むら。

弥左衛門「ねえ、そろそろ魔がさすよ。」

――挙動不審。

弥左衛門「あいつらちょっと遅れてないか?」

道順「山だからね。」

――好奇心?

弥左衛門「天啓を受ける?」

道順「違うと思う。」

――悪魔になれる?

道順「まあ、自然なことじゃないか。」

 

 

 

――頭にくる。

厨子王「(物もやたらと多い、宗教の阿呆もいる、気が狂っているとしか思えない。)」

――芝刈り。

厨子王「(――分からんぞ、あいつら…何なのだ、何をしている?)」

――怒り。

厨子王「(まさか気が狂ってしまうのは俺のほうか?気違いの住処にいるとこうなるのか?)」

――恨み。

厨子王「(あいつらは明らかに原始的じゃないか。何がどうなって、ああなるのだ?)」

――疑問…。

厨子王「(――動物か・・・ドウブツ。)」

 

 

 

――好奇心。

道順「あいつらの中身は物乞いで奴隷なんだろ?動物ってのは山師にもなれない。山師はかなり自然だからね。」

弥左衛門「…そう?」

道順「そういうもんだよ。」

――足音。

道順「来た。」

 

 

 

――結局、どうしようもない。

厨子王「(あいつらは何も考えていないのではないか?)」

それは結論だ。

厨子王「(――何かがない・・・何かがあいつらにはないのだ。)」

それは分かっている。

厨子王「(――何だろう・・・?)」

 

 

 

――マナー。

フランソワ「ご機嫌麗しく――私はフランソワ、神の御使いです。」

――注意深く。

シモーヌ「自然のお誘いです――麗しく、わたしはシモーヌ。」

――かなり不気味。

厨子王「……。」

――謎?

厨子王「・・・厨子王です。」

悪魔二人「――どうぞよろしく。」

――奇妙。

フランソワ「ところで、あなたによく似た道化がどこかにおられます・・・どこかに。」

――謎。

シモーヌ「信じることは疑いの始まりです。」

――子ども?

シモーヌ「当てになることはあまりないのです。」

フランソワ「――娯楽です。――能力を、お求めでしょう?」

――謎。

フランソワ「――素晴らしい力に、なれると思いますね。」

――それも謎。

厨子王「…どういうことです?」

フランソワ「――契約です。」

――興味。

フランソワ「均衡は摂理です――あなたもそれをお望みだ。それで契約の中身はかなりの能力――ほとんど何でもできるようになるのです。――そしてその対価・・・、」

悪魔は値踏み。

フランソワ「こうしましょう――対価は、あなたのお命か、面白いもの。」

――興味。

厨子王「……。」

厨子王、また雇われる?

厨子王「(…面白いもの?)」

厨子王、中身は物の怪。

厨子王「(・・・何だ、それは?)」

――厨子王…、

厨子王「……。」

それは世迷言であるに違いない。

厨子王「…どのようなお話に、なりますか?」

シモーヌ「――あなたの自由。」

厨子王「(…ふん、結局、俺はただの奴隷か?)引き換えには興味です。ですが私はあなた方のことを詳しく知らない。」

シモーヌ「こういうことができます。」

――刀、大地からゆっくりせり上がる。

厨子王「……。」

シモーヌ「ご自由に。」

厨子王「(…殺戮か?)」

厨子王、深く考える。

厨子王「大変に興味深いことです。しかし意気込みが足りません…。」

――厨子王、考える…。

厨子王「…どうぞ、お引き取り下さい。」

厨子王、仕事に戻る。

 

 

 

――偶然?

フランソワ「――困ったな?」

シモーヌ「そう?」

シモーヌ、働き者を観る。

シモーヌ「未熟ではない。彼はもう老けている。殺戮はもうすぐだ。」

フランソワ「それは自然だな?」

シモーヌ「そうだ、自然に任せよう。刀を置いていけばいい。」

 

 

 

――再び歩み寄り。

フランソワ「一先ず引き取らせていただきます。」

シモーヌ「――どうぞ、ごゆるり。」

二人、恭しく首を垂れ、そして消える。

 

 

 

――通常?

厨子王「(…ふん、人を泣かせる、奴らは天魔か?)」

厨子王、刀にうっとり。

厨子王「(…俺は幻覚を見ているのだ。)」

刀を取る。

厨子王「(いつもこれが道だ。しかし度胸が足りていない。奴らを殺しまくるのか?)」

刀に温もり。

厨子王「(まあ、いい、そのうち月日が流れ、俺が死ぬならそれまでだ。)」

厨子王、刀を藪の中へ捨てる。

 

 

 

――草むら。

弥左衛門「いい気なもんだよ。」

道順「どうして?殺戮の時なのに?」

弥左衛門「腕前に自信がないのかな?」

道順「隙なんかいくらもあると思うけどね。」

――不思議。

道順「…好き放題やりゃ面白いのに。」

弥左衛門「――ぼくらもね。」

道順「そうだとも。まあ、いつかは、人は自然に帰るよ。その時が来れば、その時だからね…。」




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