第一幕
第一場――王城
――地獄の車輪。
悪魔・フランソワ「下らない虫がな、あの連中を殺している。何でも儲けが悪いらしい。あの連中には何のアイデアもない――あれを仏教徒というらしい、頭の中は見事にスカスカだ。儒教徒でもあるらしい――先験的命題のマシーンにもなるらしいが、どうなることやら?」
悪魔・シモーヌ「しかしわたしたちには何の関係もない。あの連中がいくら死のうが、わたしたちには何の関係もない。」
フランソワ「――国際問題のことは気にしなくていい?」
シモーヌ「そういう問題ではない。」
フランソワ「そういう問題でもある――われわれは貨幣のしもべだ。あの連中は行きずりで不安神経症にもなる。それよりもまあ、面白いことのほうが重要だがな。俺たちが一人前の人間であるからには、他人の不幸はこちらの幸福、その逆もまた然り――要するにそれは俺たちが神だからだ。俺たちが神をやめるならさて、どうなるか、ちょっと面白いと思わないか?」
シモーヌ「・・・しかし費用がかかる。」
フランソワ「それはその通り。」
葉巻を燻らす。
フランソワ「しかしわれわれは自然に逆らえない・・・そのように出来ているのだ。」
シモーヌ「それでは神に近づくこともできない。」
フランソワ「――その通りだ。」
満面の笑み。
フランソワ「理性に違反するすべては神に近づく――神とはそういう生き物だし、要するに不可能だ。そして俺たちの理性を試すのだ。――何、一人前の神さまに一人前の奴隷、俺たちの昔気質はそこかしこ生きている。人間が最悪の生き物だから、あの連中もまたああなるのだ。尤もあの連中の神さまは野ざらしの無能力、放っておいても破滅する・・・お話はそうなっても、よいのだがな。」
葉巻のけむり…。
フランソワ「まあ、何でもよい――面白ければ、それでよいのだ。」
第二場――海辺
――草むら。
蛙・道順「あいつらはまだ生きてるよ。」
風がひとすじ。
蛙・弥左衛門「どこから攫われて来たんだっけ?」
道順「どこか遠いところだよ、詳しくは知らない。」
――怪生、変化を所望?
道順「あいつら何かもらってんのかい?」
弥左衛門「メシぐらいじゃないのかい?」
道順「どうせ世のなか、もう終わりだよ。」
弥左衛門「あいつらも終わりだ、奴婢だからね。」
――怪生…。
道順「…盗人ってわけじゃないだろうにさ。」
弥左衛門「まあ、まあ、そうではあるけど。」
――変化。
道順「もうはらわたが煮えくり返っているから、そろそろその時だと思う…何、人生なんて一回きりだからね、砕け散ってどこかへ飛ぼうが、お天道さまは知らぬ存ぜぬ、何も起こらなかったに等しい。――娯楽の華になるってのも、まあ、中々面白いことだと思うね。」
弥左衛門「…あいつらを殺せ?」
道順「まあ、あいつらは無邪気だからね。阿呆にはつける薬がない。」
弥左衛門「――それは莫迦にだ。」
道順「莫迦ってのは儲けられない奴だよ。あの猿どもは儲けてるじゃないか?」
弥左衛門「薄利でちびちびだけどね。」
――草むら、風が吹く。
道順「あいつらにはやっぱり能力がないよ。」
弥左衛門「才能がないんだ。」
道順「似たようなものさ、頭の中がスカスカなんだろ?」
弥左衛門「まあ、それで何も分からないんなら、それはそれじゃないか?あいつらはいくら殺そうが痛がりもしないし、痒がりもしないと思うね。――呑気なものさ。娯楽のお化けでも、どこかに現れないかな?」
――風。
道順「…ぼくたちは自然だ。」
――憂鬱?
弥左衛門「…そうだとも、でもそれには費用がかかるよ。」
――風、現世は強がりと欲ばり。
道順「娯楽の費用ぐらい、ちょっと積んだっていいんじゃないか?――あいつらが血しぶきを上げて死ぬのは、面白いことだと思うけどね。」
――風、夢見がちは計画ばかり。
道順「・・・どうする?」
――風…。
弥左衛門「・・・ちょっとだけだよ。」
道順「――そうだ、ちょっとだけさ。」
そして蛙二匹、大地に唾を吐く。
道順「まあ、恥さらしには、いい薬になる。」
――意識を集中・・・。
――稲妻!
安寿「……。」
海の向こう、一瞬見えた。
小萩「…どうしたの?」
――謎。
安寿「……。」
小萩「…何?」
小萩、安寿に歩みよる。
小萩「ねえ、どうしたの?」
安寿「…変なものがいる。」
――海より。
悪魔・フランソワ「案外、早かったな?」
悪魔・シモーヌ「お前が考えたから。」
フランソワ「それはまあ、自然の一部だ。」
燕尾服にドレス。
フランソワ「しかしまあ、自然の摂理とはこういうものか。相変わらず驚かされる。」
シモーヌ「どうにでもなる。」
フランソワ「費用がかかると言ったのについてくるのもいるし。」
シモーヌ「仕方がない、これも自然だ。」
フランソワ「そうだとも、自然は生命の源だから、ある時は神を憎み、ある時は神を愛する…まあ、気まぐれな奴で。」
シモーヌ「どこかに在ればそういうことだ。――しかし・・・、」
辺りを見やる。
シモーヌ「どこにでもある土地といえばそれきりだ。ほとんど未開、ほとんど何もない。」
フランソワ「もちろん、それは神の禍、神なきところ、動物ばかりとな。」
シモーヌ「では理性は動物なのだ。」
フランソワ「そういうこともある…さて、塞ぎの虫はどこかな?」
第三場――山
――明らかな謎。
厨子王「(大体、何ですれっからしなんだ?あいつらはどうなっている?)」
――芝刈り。
厨子王「(明らかに仕入れすぎている…どうしてこんなに人を?)」
――芝刈り。
厨子王「(しかも与太者やチンピラばかりだ、どいつもこいつも…。)」
――厨子王、何を思いやる?
厨子王「(俺もそのうち同類になるのだな?――所詮、すれっからしの芋の中だ。)」
――草むら。
弥左衛門「ねえ、そろそろ魔がさすよ。」
――挙動不審。
弥左衛門「あいつらちょっと遅れてないか?」
道順「山だからね。」
――好奇心?
弥左衛門「天啓を受ける?」
道順「違うと思う。」
――悪魔になれる?
道順「まあ、自然なことじゃないか。」
――頭にくる。
厨子王「(物もやたらと多い、宗教の阿呆もいる、気が狂っているとしか思えない。)」
――芝刈り。
厨子王「(――分からんぞ、あいつら…何なのだ、何をしている?)」
――怒り。
厨子王「(まさか気が狂ってしまうのは俺のほうか?気違いの住処にいるとこうなるのか?)」
――恨み。
厨子王「(あいつらは明らかに原始的じゃないか。何がどうなって、ああなるのだ?)」
――疑問…。
厨子王「(――動物か・・・ドウブツ。)」
――好奇心。
道順「あいつらの中身は物乞いで奴隷なんだろ?動物ってのは山師にもなれない。山師はかなり自然だからね。」
弥左衛門「…そう?」
道順「そういうもんだよ。」
――足音。
道順「来た。」
――結局、どうしようもない。
厨子王「(あいつらは何も考えていないのではないか?)」
それは結論だ。
厨子王「(――何かがない・・・何かがあいつらにはないのだ。)」
それは分かっている。
厨子王「(――何だろう・・・?)」
――マナー。
フランソワ「ご機嫌麗しく――私はフランソワ、神の御使いです。」
――注意深く。
シモーヌ「自然のお誘いです――麗しく、わたしはシモーヌ。」
――かなり不気味。
厨子王「……。」
――謎?
厨子王「・・・厨子王です。」
悪魔二人「――どうぞよろしく。」
――奇妙。
フランソワ「ところで、あなたによく似た道化がどこかにおられます・・・どこかに。」
――謎。
シモーヌ「信じることは疑いの始まりです。」
――子ども?
シモーヌ「当てになることはあまりないのです。」
フランソワ「――娯楽です。――能力を、お求めでしょう?」
――謎。
フランソワ「――素晴らしい力に、なれると思いますね。」
――それも謎。
厨子王「…どういうことです?」
フランソワ「――契約です。」
――興味。
フランソワ「均衡は摂理です――あなたもそれをお望みだ。それで契約の中身はかなりの能力――ほとんど何でもできるようになるのです。――そしてその対価・・・、」
悪魔は値踏み。
フランソワ「こうしましょう――対価は、あなたのお命か、面白いもの。」
――興味。
厨子王「……。」
厨子王、また雇われる?
厨子王「(…面白いもの?)」
厨子王、中身は物の怪。
厨子王「(・・・何だ、それは?)」
――厨子王…、
厨子王「……。」
それは世迷言であるに違いない。
厨子王「…どのようなお話に、なりますか?」
シモーヌ「――あなたの自由。」
厨子王「(…ふん、結局、俺はただの奴隷か?)引き換えには興味です。ですが私はあなた方のことを詳しく知らない。」
シモーヌ「こういうことができます。」
――刀、大地からゆっくりせり上がる。
厨子王「……。」
シモーヌ「ご自由に。」
厨子王「(…殺戮か?)」
厨子王、深く考える。
厨子王「大変に興味深いことです。しかし意気込みが足りません…。」
――厨子王、考える…。
厨子王「…どうぞ、お引き取り下さい。」
厨子王、仕事に戻る。
――偶然?
フランソワ「――困ったな?」
シモーヌ「そう?」
シモーヌ、働き者を観る。
シモーヌ「未熟ではない。彼はもう老けている。殺戮はもうすぐだ。」
フランソワ「それは自然だな?」
シモーヌ「そうだ、自然に任せよう。刀を置いていけばいい。」
――再び歩み寄り。
フランソワ「一先ず引き取らせていただきます。」
シモーヌ「――どうぞ、ごゆるり。」
二人、恭しく首を垂れ、そして消える。
――通常?
厨子王「(…ふん、人を泣かせる、奴らは天魔か?)」
厨子王、刀にうっとり。
厨子王「(…俺は幻覚を見ているのだ。)」
刀を取る。
厨子王「(いつもこれが道だ。しかし度胸が足りていない。奴らを殺しまくるのか?)」
刀に温もり。
厨子王「(まあ、いい、そのうち月日が流れ、俺が死ぬならそれまでだ。)」
厨子王、刀を藪の中へ捨てる。
――草むら。
弥左衛門「いい気なもんだよ。」
道順「どうして?殺戮の時なのに?」
弥左衛門「腕前に自信がないのかな?」
道順「隙なんかいくらもあると思うけどね。」
――不思議。
道順「…好き放題やりゃ面白いのに。」
弥左衛門「――ぼくらもね。」
道順「そうだとも。まあ、いつかは、人は自然に帰るよ。その時が来れば、その時だからね…。」