HAPPY HOLIDAY!!
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Έπιμηθεύς
“In welches Dorf habe ich mich verirrt?”
祝祭
2021年1月1日
Kindleストアにて
発売予定
乞うご期待
2020年12月25日
露光啓太
この不幸な暮らしはいつまで続くのか?幻想はどこへ行ってしまったのか?お庭にはひとり、あるお人形のお友だちがいた。9歳のエリザベスは今日も朝から庭いじりをしていたが、それはそれは退屈、何度も描いた絵を描きなおしていた。――後ろ向き?この子はまだ幼いから未熟者が大嫌い――お父さんが大嫌い。お母さんはもういない。偽りのお母さんは面と向かって何も言わないけれど、エリザベスが何も言わないことには懸念。――独り善がりの女・・・エリザベスは彼女をそう思っていた。――つまらないのは庭いじり、何度も描いたぐるぐる巻きの太陽と大きな樹、スコップでいつも描かれるそれは、お庭の芝生をぼろ雑巾にする。
大きなお屋敷からお父さんが出てきた。――「またお絵描きか、チャールズ?」――屈辱?チャールズは飼い猫の名前だ。そのペルシャ猫は無法者、いつものお城で今日もレースのカーテンをいじくっているだろう。お手伝いのフランシスはサンマの白焼きを彼に与えているだろう。――「わたしチャールズじゃない。」――「よく出来ているな、その絵は。」お父さんは空威張り、いつもの絵を見ていた。──邪?子どもの頭の中には何がつまっているのだ?――夢?――「果てしないなあ、チャールズ。」お父さんは言った。お父さんは娘をまだ一応、甘やかすつもりでいた。そして彼女はまたお城を描きはじめた。――絵の呪文?そのお城は「く」の字に曲がっている。
同じ絵はいつものお城のお庭にもあり、確かにあまり目立たないところに描かれ、それとなくその辺りを歩いてもよく分からないほど隠されている。彼女は描き終わるとそれをいつも踏んで隠そうとする。大事な芝生はズタズタに切り裂かれ、お父さんは少し哀しげだったが、取りあえずそのままにしておくことにしていた。――「海に行かないか、エリザベス?」お父さんは言った。――「・・・行かない。」エリザベスは言った。――「チャールズ」2回は厳しい?――「優等生になれる・・・な?」お父さんは転がっていたお帽子にポケットから取りだしたキャンディーを入れた。お父さんはそしてそのまま崖下へ下りていった。――チャールズはすねた猫・・・?
アバディーンのこのお屋敷は友人から譲りうけたものらしい。その友人は「シンガポールで外してしまった」ということを彼女は耳に入れていた。現世のことは彼女にはまだよく分かっていなかった。――彼女は初心である、当たり前だ。彼女はまだ9歳である。――それで彼女の視界に彼がまた入ってきたので、彼女は身構えた。――それは苦手なもの、のしのしと歩くその「男」が彼女には気に入らないのだ。茂みの中からそれは現れ、何喰わぬ顔、彼女の前を横切ろうとしていた。――それは少し離れたところだ。なめられたものではないか・・・?――と、彼女はふいに空を見上げた。――曇り空、それはもちろん灰色だった。――預言者・・・?
何一つ詳しいことは分からなかったが、それが現れると雨が降るというようなことを、彼女は確かにどこかで耳に入れていたのだ。――お父さんはすぐに帰ってくるのだろうか?お父さんは確かシェリーとかいう詩人の詩集を持っている。思い浮かんだことはまったくナンセンスだったかもしれないが、ともあれ彼女は決意したのだ。彼女はスコップを手に立ち上がり、そして彼のもとへ・・・――そう!そして彼は跳ねた。それは中々の飛杼だった。彼女の中に歴史が生まれたのだ。――神秘、これを発見しない者は歴史を知らない。誰がそれを書くのか?ともあれ彼女はヒロインになったかもしれない・・・――と、そうだ、また彼は跳ねた。
その跳ねるものが彼女には気に入らないらしかった。のしのしと彼は歩き、そしてたまに跳ねた。彼女はスコップで八つ裂きにしたい思いに繰られ、だが堪えた。支配者の笑いが込み上げてきたが、彼女はそれも堪えた。――と、彼はまた跳ねた。彼女の小さな手をすり抜けて、何喰わぬ顔、まったく何も起きていないというような顔をして彼は・・・しかしメスかもしれなかったが、ともあれ喉を動かしていた。四つん這いになった彼女はそろそろと動いた。・・・苦手?しかし意識は嘘をつき続けていた。人間にはこの手の狂気がつきものだ。責務が、彼女をそうさせる。――そしてわし!と、彼女は彼を捕まえようとしたが、彼はまた跳ねた・・・。
信じられないものを彼女は観た──支配者は何度外すのだ?彼女は自分に失望しかけていた。――そして猛獣のように眼をむいて悪魔の微笑、依怙地がやにわに四つん這いの彼女を突進させ――「よし!」猪のような彼女はようやく外連味の彼を捕まえた。・・・雨?雨が降ったら彼が現れる、そういうことだっただろうか?ともあれ彼女は彼を捕まえ、キャンディーをポケットへ突っこみ、そしてお帽子を取ってお屋敷の中へ、洗面所で彼をきれいにしなければならない。――力ずくで彼を水浴びの刑に処し、タオルでふく。不届き者の彼は今や彼女の手の中、だが悠長に喉を動かしていた。――世の中に素晴らしいものはあまりない、しかしこれは手柄だ。
キッチンで彼女はガラス製のサラダボウルを手に入れ、さらにパウンドケーキを2つ取った。――そしてお部屋へ。それには蓋をする必要があるだろう。彼女は彼にサラダボウルを逆さにかぶせ、そして窒息しないようにパウンドケーキを机とボウルの縁の間に挟んでおいた。本棚にはリウィウスの『ローマ建国史』、そしてオクスフォードの辞書がある。彼女はそれらを取った。彼はパウンドケーキと格闘してずるずるとサラダボウルは動いたが、出られはしないようだった。勢いよく手を突っこみ、彼を取りおさえ、そして口を開けたサラダボウルの中へ彼を押し入れ、少し隙間を開けてまずリウィウス、さらにオクスフォードの辞書を載せる・・・。
――完璧な仕事ではないだろうか?ぐちゃぐちゃになったパウンドケーキはまとめてサラダボウルの中へ、そしてデスクはティッシュでふかれ、それはゴミ箱の中へ、そして窓を開けると空から・・・そうだ、何も起きない。雲間に光が少し見えた。お陽さまが傾くまでまだ時間があるようだ。・・・――蜘蛛、苦手なもう1つのものが彼女の頭に閃いた。恐ろしい女郎蜘蛛を見たのだ。それは茂みの中にいる。・・・――網、網だ。その在処はよく知っている。要するに納屋だ。納屋にはしかし鼠がいるはずだ。しかしそれは怖くはない・・・いや、怖いものなどもはやない。人間の意識は過剰を期待して、こういう計画を人に練らせるのだ。――闘わせよう・・・。
納屋の扉は開かれ、彼女は網を手に入れた。淑やかに彼女は茂みへ向かい、赤と黒と黄色のあいつを捕まえるのだ。キッチンのトングの場所は分かっていた。トングでそれを捕まえれば・・・よかったのではないか?ともあれ過剰な彼女はそれに気づけばまだよいほうだった。――彼女にはよく分からない・・・いや、そういうふりを彼女はよくする。絵の場所を確認して、大凡の見当をつけ、彼女はもう一度茂みの中へ・・・恐ろしいか?何が?――人が?そして彼女はあいつを見つけた。――するとどうだろう!あいつは蝉を食べている!――パキリと何か音がした。彼女――そうだ彼女だろう、彼女は今、お食事をしているのだ。――彼女・・・。
ひょっとしてだが、「ジェンダー」は思いこみの所産かもしれない。オスとメス、男と女は、それぞれ二重に重なるものだ。世の中にゲイはもう山のようにいる──人間の知識の往来がそうさせたのではないだろうか?自由がそうさせたのかもしれない。自由は人の基本を換えてしまい、「ジェンダー」までもそうさせているのではないだろうか?――ところで彼女、エリザベスは彼女、女王のような彼女をトングで捕まえた。お食事中の不意打ちはひょっとして騎士道に違反するかもしれなかった。彼とは一応、正式に格闘したが、今回は中々卑怯なことをした。――ともあれこれは結果論だった。あるいはまた終極論・・・いや、哲学はやめておこう。
それはすべて胃のお話だろうから、煎じつめても結論はもう出ているのである。彼女はまた急いでお部屋に戻った。――するとどうだろう!彼がいない!何という・・・ふむ、そうだ、エリザベスは落ちつかなければならなかった。中々の力持ちだ。リウィウスとオクスフォードを両方とも押しのけて、彼は逃げたのだ。それとも隙間が大きすぎたのか?ともあれトングもろとも彼女は打ち捨てられた。まっさきにベッドの下を彼女は覗き・・・いない。――窓?この高さから飛びおりるだろうか?――そうだ、扉は閉まっていただろうか?――そうだ・・・記憶は彼女を興奮させていた。彼女は扉を開けたままだった。――お人好し?成果をすぐ逃がすとは・・・。
それでこのプロジェクトはもう終わってしまいそうだった。虚しさが懐から何かをむしり取るのだった。そしていつものように睡魔が襲いかかってきた。彼女の失意をどうにかして除こうと、おそらくは幸福の神さまがそうしてくれるのだ。人間の内なる機械は神さまによく似ていた。それは何事か絶対的な営力を持つ。しかし権力と意志の世界を生きるには彼女はまだそれほど餓えてはいなかった。欲望の権化になるには餓えが必要である。そしてエリザベスの家は極めて裕福だった。それで極めて甘やかされていたエリザベスはまたベッドに身を横たえた。彼女のことはもう忘れていた。恐怖など思い出すかぎりのもの・・・あまりに現在的に彼女は生きていた。
うっとりとして空想的なヴィジョンが駆けめぐる中、彼女は深い眠りに落ちた。彼女はよく夢を見た。彼女には自分の夢が気になるのだった。――自分の夢・・・世間体を気にしてはきっと落ちつけようのないような壮大な夢が、彼女の胸には秘められていた。――それは覇権主義の夢だった。ありがちな女の子の夢だった。――夢・・・何度か見たアヒルの船長が現れ、海賊船で海へ、そして彼と彼女はまた巨大な悪魔クジラを相手に闘うのだ。巨大な波に襲いかかられても船長は何喰わぬ顔・・・そう、彼女はこの何喰わぬ顔におそろしく弱いのだった。彼女は何か参ってしまう――何喰わぬ顔・・・世間のすべてを見下ろすような、その顔・・・。
おそらくそれは彼女の顔でもあり、おそらく彼女は彼女にも魅力を観ていた。――彼女は偶像、トランスでありシグマである。赤毛の彼女はよく鏡を見た。彼女はナルシズムに・・・耽っていたが、それにしても絶対的にではなかった可能性がある。――いつかは終わるだろう、そのような冷めた意見が、彼女の身をたまに凍らせるのだ。――幼さは弱さ?いや寧ろ壊れやすさだ。過渡期の思春期はもうすぐ、平等主義の松明ももうすぐ、富をなせばその松明は変わり、しくじればやがて老けこむ、そういう性である。――このように、人間性はかなりの程度普遍的だろう。小さなものへのこだわりが人間を若返らせ、大きなものへの憧れが人間を老けこませる。
――このように、人間性は平等を求めている。知識がどう積もろうと人間には経済学がある。――そして嵐の中、角つきで眼つきの悪い奴との格闘が始まった。アヒルの船員たちとともに彼女は大砲の砲弾を運んだ。彼女は女王陛下のようだった。彼女は処女王だった。彼女は「貞潔」を貫いた。彼女はネイションだったかもしれないが、生まれ変わって殺戮の火となっていた。砲弾は何発も撃ちこまれ、しかしクジラは沈まなかった。船長はまだやる気だった。船員たちもほぼ同様だった。彼女は考えないことにしていた。――雲間・・・そこから光がさして、だが神さまは降りてこなかった。神々しいその場所へ向かい、さらに数発撃ちこみ、そして海を行く・・・。
神々しい光は何事かを想起させた。――アダムとイヴの物語・・・そこでイヴは光に見舞われ、生きる意志に目覚め、分別のない阿呆の身分を離れ、ひたすらにわが道を行く・・・そして破滅する。そして無数のイヴたちの戦は始まり、今ここにいる。フェミニズムの亡霊は「人間」の亡霊で、ヒューマニズムがそれを説き、その後の飛躍を準備した。判断は人間を神のようなものに仕立てたが、どうにも収まりがつかず、闇雲な構築に励んでいる・・・それが現在の人間の姿だ。自由で同時に計画的であることは不可能かもしれない。人間の生活は人間に矛盾して、人間をよく混乱させる。その海は穏やかであることがあまりなく、人間の船を難航させる。
――終わらないかもしれない。しかし人間の歴史とはそういうものだ。人間が最後のひとりになるまで、一応それは続くだろう。未知との対話は継続され、それが終わるまで人間の歴史は終わることがない。神々しいその場所に近づき、クジラは・・・さて、沈んだかもしれない。――いや、死ねばそれは浮きあがるのではないか?彼女にはしかしよく分からなかった。そして海は途端、落ちつきを取り戻した。水面はあまりに穏やかで、きらきらと陽の光を跳ね返すばかりだった。ゆっくりと・・・船長は葉巻の端を切り落とした。船員たちもこれに倣い、そして彼女もそうした。――葉巻だ。このけむりは美味いのだろう?マッチの火が灯り、それがこちらへ・・・。
――すると船体が急に傾く!ありがちではないか?――そしてこのまま破滅する。奴はまだ生きている!――まさに歴史の教科書だ。それは大口を開けていた。ローマはそれに何度も襲いかかられ、闇雲に亡びた。呑みこまれる前に1発だけ撃ちこんだが、要するにそれが最後の一撃だった。――悪魔の口の中へ・・・いや、毎度そうだったではないか?そして彼女はずるずるとクジラの中身のほうへ、一層の闇へ・・・と──そう、そこで彼女の眼が覚めた。込み上げた笑いは酒だった。そして彼女は死神のように偶像と化した記憶を洗い、いつものように脳裡に焼きつけようと欲した。――すると辺りで何か音・・・羽根つき帽子、マント、緑色の身体・・・カエル?
――「やあ、エリザベス・・・。」
銀紙をくるくると巻いてそれに火をつけると、不思議な幻影が浮かび上がった。蒼の王国では魔法がお盛んだった。蒼の王国の人民は皆、閑を持てあましていた。彼らには明らかに何もすることがないようだった。『農事暦』をひもといてページをめくると、「明日の昨日」と書かれた興味深いところが見当たる。農民が持っている暦のほとんどはこの『農事暦』であって、教会の暦ではない。大魔法使いルウェリンの書いた『農事暦』は秘密の夢を記しているのだ。どうやら「ルウェリンの胤」であるらしい彼女、蒼の王国のゴマンと見せびらかし女王はそれをめくって、また銀紙に火をつけた。この銀紙は現在、キンダーガルドで最も有名な魔法使いが拵えたものだ。
彼の名はスノーフェイスという。現在は悪魔の国に住んでいるが、この銀紙を造っている彼の会社は黒の王国にある。莫大な税を黒の王国に納め、彼は実に「男爵」の称号を得ている。そして普段は悪魔の国のどこかにいるのだ。――「気になる。」葉巻をくわえたままゴマンと見せびらかし女王は言った。――「それはほとんどまやかしです。」と、ディノザ公爵は言った。――すると彼のレイピアが折れた。甲高い音を立て、折れた細身の剣身は床に身を横たえた。――沈黙・・・公爵は剣身を手に取る。――「・・・気になるのは「終わりの日」です。」女王は言った。――「ああ、それですか。しかしそれは『農事暦』の最後ではありませんよ、大丈夫です。」
公爵は言ったが気まずいようだった。――当たった・・・女王は思っていた。今日は公爵が新しい剣術とやらを披露する日だった。観ているのは女王のほかほとんど誰もいない。――「そう言えば今日は交渉人が現れる日ですね?」信じているかもしれないミュレ伯爵夫人は言った。――「そうなのです。」女王は言った。――そう、それが「明日の昨日」、すなわち今日なのだ。この預言つき『農事暦』はルウェリンがコツコツと640年分書いた。今日はその620年目に当たる。620年前の今日、この暦は始まったのだ。――「歴史家は、7割ぐらいは当たると言っておりますね?」タキネ侯爵は言った。――「そうなのです・・・気になる。」――葉巻のけむりがゆれる・・・。
そのころ黒の王国、このキンダーガルドを強固に支配していたその王国では異変が起きていた。無数のグーグー鳥が飛来して、なぜだか決まって金持ちの屋敷の屋根にとまるのだ。クラリネット侯爵夫人は嘆いていた。彼らの土地にもついに「終わりの鳥」がやってきたのだ。――「あれが伝説のグーグー鳥ですか?」――「はい。」鳥刺しのひとり、アクリルは言った。――「彼らに並の銃弾は効きません。この槍で突き刺すか、それともこの網で生け捕るかです。」グーグー鳥の肉の味は「オン・デマンド」なのだそうで、それはルウェリンの書いた『世界辞典』に載っている。――「それは愉しみです。」侯爵夫人は言った。――「はい。」――そして鳥刺しは屋根へと上る。
同じころ、王都ヴィンでは夥しい数のグーグー鳥と、それよりはるかに少ない鳥刺したちが屋根の上で争っていた。――「鳥刺しは大儲けだ。」カエルのフランソワは言った。――「鳥刺しは魔法使いの訓練を受けたんでしょう?」――「そうだよ。」何喰わぬ顔、二足歩行の彼はキャンディーを口へ放りこむ。――「行こう。」レモン味のキャンディーを口の中で転がしながら丘を下ると、奇妙な閃光が雲間に見えた。――「グーグー鳥の巣だ。グーグー鳥は「世界の怒り」なんだ。」フランソワ。――「魔法が心を和ませることってあるわ。」エリザベス。――「グーグー鳥は魔法使いだ。あるいはルウェリンの呪いさ。」――ルウェリンは世界に魔法をかけたのか?
横暴な市民たちは猟銃を持って鳥たちを仕留めようとしていたが、グーグー鳥は不思議な衝撃波で銃弾を落とし、または逸らした。逸れた弾はたまに鳥刺しの鎧に当たり火花を散らす。鳥刺しは気にしない。――「しかし今日は大猟だな?」宰相府の窓から向こうを見やり、老獪なフルート侯爵は言った。――「肉屋は破産だ。」――「はい。」ホーン伯爵は言った。――「鳥刺しはしかし何か知っております。彼女は・・・気になります。」――「ふむ・・・。」眼の前には料理された「オン・デマンド」が置かれていた。――「陛下も大変気にしておられた。迷信だが7割当たるらしい・・・ある意味だ。」骨つきのそれを一口。――「――ふむ、高い。」侯爵は満足する。
黒の王国はまだ弱くはない。傍若無人な専制が敷かれているが、改革のおかげで住民たちは概ね満足しているらしい。工場の新しい傍若無人が排気口から新しい吐息をついて、「労働者」と呼ばれる新しい軍団が組織されつつあったが、街にはまだゆとりがあった。誰かが煽動しないかぎりはまだ多分平気である。――「ここにスノーフェイスはいるの?」――「時々ね。」その大きな屋敷はルウェリン社のものだ。鳥刺しの一味はこの屋敷に寝泊まりしているらしい。不思議なことに屋根にはグーグー鳥がとまらない。ふたりは傘をさした。遠くでグーグー鳥のさらなる攻撃が始まろうとしていた。――彼らは無数の糞を落とす・・・街はひどい目に遭うはずだった。
帽子を取られたり頭をくちばしで突かれたりして、市民たちは激高していた。――「早く捕まえろ!」巡査は叫んだ。その一角はほとんどアナーキーだった。一旦帰って夕暮れ時にまた来るのだが、今日の襲撃はかなりものだ。鳥刺しに借りた「光る霧の網」に鳥たちを捕らえ、警官たちは大わらわ、ヴィン大聖堂の聖職者たちも街へ出てグーグー鳥を捕まえていた。――「これは大変なことになる。」遊びに来ていたファルシュブルク大司教は参っていた。――「終わりの日が近いのだ。預言書にあるとおりではないか。」光る霧の網、この異教の代物はしかし大きな救いだった。大司教は別に気にしていなかった。――「偉大な女神が蘇る・・・そして龍が現れる。」
大司教は空を観る。――「黙示録の火が灯り、大きな戦が起こるだろう。」――同じころ、赤の王国の赤銅王または権利または君臨は例の『農事暦』を読んでいた。侍従たちは彼の身体に油をさしていた。王はまったくのロボットで、だが本人はまったくそう思っていなかった。――「・・・気になる。」――「はい。」侍従長兼首相兼大蔵卿のプライド伯爵は言った。――「すべて胃のお話でしょう。そして災難はすべて向こうで起こるので、われわれはいつもどおり財政を責苦にしないように心がけていればよいのです。」――「ふむ。」そして君臨は沈黙した。──笑いが、伯爵の鼻に引っかかっていた。――「銀紙は、この島国では何も起きないことを予知しています。」
健気な赤銅王または権利または君臨はある深い迷信を信じていて、それはグーグー鳥の心臓を101個食べた者はあらゆる憤りを解消し、そして落ちついた「真当な人間」になれるというものだった。――「しかしせっかく造ったプディング兵は、」――「あれは防護のために造ったものですから、防護のために使わなければなりません。」伯爵の口はよく動く。そして先制は決してしてはならないことだった。――「鳥刺しが参りました。」侍従のひとりが言った。――「・・・通せ。」ややムスッとして権利は言った。鳥刺しのニトロはグーグー鳥を2羽持ってきた。――「本日は大猟です。ヴィンは大変なことになっており、雰囲気さも革命的です。」
ぐったりとしたグーグー鳥を見ると、赤銅王または云々に満足が帰ってきた。――「最悪の理が降りてくる・・・『農事暦』にはそう書かれてある。」――最高の時間が訪れる・・・伯爵とニトロは同じことを考えていた。――「大変な理だ。私がこうしてグーグー鳥の心臓をたらふく食べている間にも、最悪の破滅の時が近づいているのだ。――悪の帝国が、現れる。非常に歪んだ正義を持ち、途方もない独善を撒いて破滅的な戦争ばかり仕掛ける。――途方もない思いこみの塊・・・そして最悪の自然を、われわれは彼女に与えるのだ。」――「・・・赤い龍でございますね?」ニトロは言った。――「しかし交渉人の力がなければ彼女は復活できません。」
伯爵とニトロは言葉を待っていた。――「・・・ふむ、なるほど、しかし事を運ぶにはキンダーガルドのすべての王侯が力を合わせなければならない。交渉人は深い憂鬱の持ち主で、非常にわがままだ。大金持ちになりたいと、そのことばかりを交渉人は考えるらしい・・・どうしたものか?」権利または君臨は言った。――「物の価値というものは勢いや思いこみでどうにかなるものです。交渉人を乗せればよいのです。判断を誤らせないよう全力で彼女を理解しなければならないのです。彼女を上機嫌に保ち、不安を善がりに換え、意識を「責務」と呼ばせ、立ち向かわせればよいのです。」と伯爵。――「・・・甘いものがかなり要ると思う。」とロボット。
伯爵は答える。――「なるほど、そうしますと経費はさらに削減されなければなりません。われわれは大陸に二度と大きな領地を要求してはなりません。」――「・・・ふむ。」――納得?勢いと思いこみで、権利または君臨は納得した。ほとんど口だけの伯爵はやり手だった。――「すると私どもはキンダーガルドを駆けめぐらなければならず、さらに悪魔の国に赴かなければなりません。仰るとおりわれわれは、最悪のものと交渉しなければなりません。」ニトロは言った。――「ふむ・・・。」権利は黙った。――悪魔の国、それは赤の王国に叛乱を起こした赤銅王または云々の元臣民たちが創った国である。彼らはカネに眼がない高度な哲学者たちだ。
このような会話を赤銅王または云々たちが交わしていたころ、黒の王国のふたりは何をしていたか?ふたりは食事を採ってその胃を満たしていた。――グーグー鳥は美味かった。――「ふむ・・・これは珍味だ。」――「オレンジの味がする。」エリザベスは驚いていた。――そう、世にも不思議、グーグー鳥の肉はそれを食べる者が食べたがっているものの味を、その舌にくれてやるのだ。――「で、これからどこへ行くの?」エリザベスは聞いた。――「もうちょっとだと思うけど。」懐中時計を取りだしてフランソワはそれを見た。――スノーフェイスの使いが来るのだ。恐ろしい悪魔を呼び出すために、スノーフェイスとルウェリン社の社員たちは働いている。
――そこで時間を少し遡ろうではないか。スノーフェイスがキンダーガルドを離れたのはもう9年も前のこと。9年前、彼はあることを思いついた。人口を削減する方法がある――赤い龍を復活させなければそれは叶う、彼は鉄の王国のもの凄い口ひげ王にこのお話をしてみた。――「ふむ・・・それは幼気な願いだな?」――「はい。」悪戯好きのスノーフェイスはもの凄い口ひげ王に言う。――「そして預金を使わなければなりません。人間は今、多すぎるのです。」――「・・・戦争をすればよいわけだろう?」王はぞんざいに言った。――「はい。そして人間たちが怒ります。怒りはグーグー鳥を呼ぶのです。人間たちは自らの怒りで亡びると思います。」
巨大な鎌の刃のような口ひげが2つ、ともあれこのとき以来、王は彼のお友だちになろうと勘違いするようになった。端ないもの凄い口ひげ王には逃避のことしか頭になかった。新興中産階級によく似た彼はそのほとんどがそうであるように逃避願望が強く、端ない物陰で、目下の者には厳しく、目上の者には諂うがしかし同時に彼らを裏切る機会を待つ・・・それは悪魔の国のスタンダードによく似ていた。――「天使に気まぐれはありません。」スノーフェイスは言った。――「彼らは剛直なやさくれです。彼らは神の言葉を守ります。それしか能力がないのです。宗教の信者とは大概そういうものです。しかし最悪の天使、つまり神とは契約を結びましょう。」
――「恐ろしいことになります。」スノーフェイスは言った。もの凄い口ひげ王は沈黙してまた裏切る決意をしていたが、要するにこれでよかったのだ。――世界は破滅するだろう・・・そして世界の終わりを越えたなら、人間はもっと自由になれる、これがスノーフェイスの秘かな願いだった。――このようにして9年の年月が流れ、スノーフェイスは悪魔の国で結構なお金持ちになっていた。――「親分さん。」イタチがテーブルを駆け上がり、エリザベスは驚いてみせた。――「何?」――「あのね、急に用事ができてね、それだからついてきてほしいの。」イタチは甘えている?――「気になる。」エリザベスは言った。――「あのね、これは試練なの。」イタチは言った。
――スノーフェイスがどこかで観ているのかもしれない、エリザベスはふと思いはじめた。イタチの眼は真赤に光っていた。――「そう、じゃあそうする。どうすればいい?」――「こっち来て。」イタチは駆けた。――「やれやれ、いつもこんなだよ。」金貨を卓に置き、剣を持ってフランソワは立つ。――厨房ではコックたちが皆、赤い眼をして棒立ち、偶然入ってきた給仕も赤い眼になって棒立ち・・・イタチの赤い眼がまた光る。――「こっち。」イタチは駆けて裏口へ。――「王室の官憲がね、親分さんを探してる。」イタチは言った。――「そうだ、大変なことになる。」フランソワは言った。――「何、大変なことって?」――言う間にマンホールの蓋が弾け飛ぶ!
見れば官憲――しかしイタチの眼がまた光る。――「あとで話すよ。」そしてイタチはするする下へ、暗黒の穴を観るとエリザベスは恐怖。――「勇敢さに欠けるね、エリザベス?」フランソワは言ってするする下へ、エリザベスは驚いてそれに続く。――穴の中、辺りは暗く、だがかなり向こうに光が見えた。上ではマンホールの蓋が閉じられる。――「ちょっと待った。」フランソワはポシェットから「光る河豚」を取りだし、その額を指で弾いた。苛ついた河豚は真赤に、そしてやがて真白に輝きはじめた。――「行こう、向こうに雇い主がいる。鳥刺しのボスのひとりだ。」フランソワは歩きはじめた。エリザベスはフランソワのマントを一旦つかみ、そしてそれを離し、歩く・・・。
――そうだ、そして冒険は始まるのだ。
ルウェリン・ショップ――とんでもないおもちゃ箱。――「来たね。」彼女の名はフリーダ・キンダーガルド、この土地と同じ家名を持つ彼女はたくさんのお友だちのお友だち、ルウェリン社の大株主で大銀行家、まったく何かの鳥という顔をして、彼女はエリザベスを観た。――彼女は鳥刺しという実は盗賊たちの親分のひとり、知らないことはほとんどない。――「お座り。」卓にはお紅茶、フルーツやお菓子がいっぱい、それにしてもおばあちゃんは何の価値もないという顔をして、エリザベスの顔をずっと観ていた。――「かわいいね、エリザベス。」――「どうも。」ふたりは腰かけた。――「お食べ。マッチ箱は、わたしは嫌いだよ。」フリーダは『世界辞典』を開いた。
地下水道の出口はなぜか屋敷の庭先にあり、黒い鎧の鳥刺したちが見張りをしていた。鳥刺したちはいつも鳥の仮面をつけている――そしてフリーダの顔は鳥のよう。――「どこまで話したんだい、フランソワ?」パウンドケーキを頬張るフランソワ、フリーダは眼鏡をかける。――「この土地の成り立ちと、ルウェリンのこと。」――「グーグー鳥のこと。」エリザベスは割って入った。――「なるほどね、それで交渉人の使命についてはどうなんだい?」フランソワは・・・脂汗をかいているように見えた。――この人は怖いおばあちゃん?――「それはあとで話すって。」エリザベスは言った。――「やさしいね、フランソワ?」フランソワは深い沈黙、ただお紅茶をすする。
フリーダは立つ。――「人間にはずっと無垢でいることができない――いつかは使命に気づくものだ。とんでもない運命が待ちかまえていたら、何もしないわけにはいかないものだよ。」ショーケースから8角形の変わった箱を取りだし、彼女はそれを持ってきた。――「不思議なことは不思議なことさ。大切なのは気づかないこと。――事実を受けいれる・・・生きるコツだよ。」不思議な文字が書かれた8角形の箱、それはコンパスのようにも見える。――「真理の箱だ。針がこの方角を向いているときは真、それ以外のときは偽。」――「交渉人の記憶にすべて記されているんだ。」フランソワは使命を果たしたと言わんばかり。――そして真理は北北西・・・。
――「そのとおり、運命はすべて交渉人が知っていて、あとはそれを思い出すだけ。」フリーダは言った。また北北西。そしてエリザベスは沈黙。――「欺瞞をしても事実は容赦ない。」コンパスは・・・南を向いた。フリーダはチェリーを1つ食べた。――「さて、仕事を始めよう。交渉人の証を、持っていると思うけどね?」フリーダは沈黙。――「・・・思い出せばいいんだ。」フランソワは言った。また北北西、エリザベスは少し顔を赤らめた。しかし落ちついて思い出すと・・・そう、ポシェットから指輪が。――「そうだ、そいつをここに置くんだ。」フリーダが指さすそれは真北、指輪をそこに置くと不思議な文字が光り、コンパスの針が勢いよく回りはじめた。
水晶の張られた8角形の中心の円は光りはじめた。――「思い出すのさ。」フリーダは『世界辞典』の「12の眼の龍」のページを開く。――「これは「大自然の女王」――あらゆる理由を破壊しつくす。こいつだけが頼みの綱だ。彼女を呼び出すにはアイテムがいる。」とフリーダ。――「イメージだ。それで残りのアイテムが分かる。すべてエリザベスの記憶にある――観たもの、聴いたもの、どこかにあるんだ。」とフランソワ。――そして沈黙・・・いつの間にかエリザベスは祈るように眼を瞑っていた。――「・・・雨上がりの道、露草の根・・・ルビーの露草。」フリーダは好奇の眼を光らせ、フランソワは固唾を呑んだ。フリーダはペンを執り、それを書きとり、声に出す。
――「ルビー草。」コンパスは真北、そしてまた回る。――「13の繭、羽子板の月、三日月の下・・・お城?」――「とても臆病な蛾の繭、白金の繭。」また真北、また回る。――「足跡、鮫、爪の跡、血まみれ・・・山の奥?」――「鮫虎の爪。」――「日暮らしの月、蝉の鳴き声、夜空に月、満月・・・女の声、髪の毛。」――「シルフの髪の毛。」――「恋・・・色恋、嘘つき、贋物・・・歯形?靴ひも・・・棍棒?」――「ジャイアントの牙。」――「・・・深淵、恋の終わり、夢・・・水?光る水、風の吹く水。」――「アプスーの吐息。」――「・・・剣?炎・・・闇を裂く、復活する、イノヴェーションをする・・・もう一度。」――「不死鳥の羽根――ふむ、ちょっと難しいかもしれない。」
フリーダは鳥刺しに算盤を持ってこさせた。――「計算機よりこっちのほうが早いんだよ。」眼鏡をかけなおし、恐ろしい凝視と恐ろしい指、そして番号を書き、場所を記す。――「もの凄い記憶力ね、おばあちゃん?」エリザベスは言った。――「いい気なもんだよ。交渉人はあんたなんだからね。」さらに数字を書く・・・予算だ。――「これは大変な額になるね。軍隊をいくつか動かさなければならない。ジャイアントは手強い。」――「・・・あいつらは見かけだけだと思うね。」フランソワは言った。――「恋人探しかね?」フリーダは言って『世界辞典』をめくる。――「あいつらはすぐに恋をするんだ。心の中で負けるってことさ。」フランソワは言った。
――「それは鋭いご意見だね。」儀礼的にものを言い、フリーダは眼鏡を外す。――「最後の不死鳥の羽根ってのはね、どこにあるか分からない。」――「ほかはすべて分かるの?」――「もちろん、わたしは物知りだからね・・・。」・・・と、また間が空いた。今度は気づいたので、彼女はまた瞑想・・・そして鳩時計が午後2時を報せる。グーグー鳥は一旦帰る。――「・・・輪っか。」――「輪っか?」フリーダは言うと心当たりを探す。――「ウロボロスかね?」――「そうかもしれない。尻尾をくわえて生きる。おじいちゃんがいっぱい・・・いる。――扉・・・ルウェリンの扉。」――「ルウェリンの子孫なんじゃないのかな?おじいちゃんがいっぱいだろ?」フランソワは言った。
――「おばあちゃんもいるかもしれないがね。――まあ、いい、取りあえず見に行こう。」そしてフリーダはメモ書きを鳥刺しに渡す。その鳥刺しは棚から光る霧の網を取り、それを広げ、そしてそこへジャンプ――すると消えた。――「あの網も持っていきな。」フリーダはまたショーケースから道具をいくつか持ってきた。――「気になるのは勇気だよ――本当にそれだけだ。」戸棚からも道具、さらにリュック、さらに金貨をごっそり。――「いいんですか、こんなに?」――「いいんだよ、世界の平和のため。」フリーダの眼は輝いていた。エリザベスは考えて、ポシェットからキャンディーを取りだす。――「ありがとう――さあ、出発だ。」フリーダは大急ぎ。
リュックに道具を入れて庭に出ると、ハシゴが1つ、その上に何かある。かなり長いハシゴだ。その両脇に鳥刺し。――「まずはルビー草が適当だね。一番楽だ。」――「はい。」エリザベスはメモ書きと『農事暦』と『世界辞典』を受けとる。――「フランソワは強いから頼りになる。あとは自分で考えること。」――そのとき、はぐれたグーグー鳥がどこからかやってきた。鳥刺しは仕込み槍を取りだし、フランソワは剣の柄に手をかけた。エリザベスはそれを制止する。――「どういう意味だい?」フリーダは言った。――「わたしを見にきたんだと思う。」エリザベスは直観を述べた。――「天使がね。」疑り深いフリーダが見守る中、長い脚のグーグー鳥は庭へと降りた。
エリザベスが手招きすると、グーグー鳥は跳ねてこちらへやってきた。この「跳ねる」という行動はエリザベスの気を惹くようだった。――「眼が金色なら怒っていない。」フリーダは言った。グーグー鳥は孔雀と鶴を合わせたような生きもの、恐ろしい奇声を上げ、閃光と衝撃波を放つ魔法使いの鳥だ。怒ると眼が紫色になる。――それは・・・少しずつ金色に変わっていった。エリザベスが喉をさすると、おそらくの彼女はかわいげな声を出す。――「この鳥は天国の使い、世界の終わりを報せる。」フリーダは言った。――「きっとみんなの夢なんだと思う。みんな世界が変わることを願っている。」エリザベスは言った。――「・・・いい気なもんだよ。」フランソワは言った。
――「とんでもない独善が蔓延る。」フリーダは言った。――すると1つのヴィジョン、おそらくグーグー鳥が伝えたもの、エリザベスはしばらく棒立ち。――「・・・洞窟に何か映ったかい?」フリーダには気になるようだった。――「・・・うん、よく分かった。」エリザベスが言うと合点したのかグーグー鳥はまた跳んで退がった。一瞬、彼女は不敵な笑みを浮かべたように見えた。――そして彼女は飛び立つ・・・空中で閃光を一度放ち、そして空の向こうへ。――「たくさんの天使が降りてきて、メチャクチャな破壊をする。人間は斬り刻まれ、結局勝ち目がない戦・・・途方に暮れて、そして神さまは来ない・・・なぜならそれは神さまの仕業だから。」エリザベスは言った。
――中世の神学?ハプニングは数知れず、人間は進歩の道を行くが、かなりのものを棄ててしまう。――そしてこの夢は何か?エリザベスは考えこんだ。本当に彼女の観たもの、聴いたもの、素材的にはそれだけなのかもしれない。ギリシャの神話、ローマの神話、キャロルの物語、スティーブンソンの物語、チョーサーの物語、そして何よりシェイクスピアの物語、ハリウッドの映画、Xboxやプレステのゲーム、コミックやアニメーション、そして『バイブル』、『クルアーン』、インド神話、中国の八卦の技術、歴史の素養もいくらか積んで、それらが渾然一体、グローバルな寓話となって、この夢を表しているのだ。――「さて、行こう。」フランソワは言った。
ハシゴの向こうに正方形の穴がある。――「どうやって浮いてるの?」――「魔法だよ。」フランソワは言った。――「タリフ岬までは2時間、交渉は明日の朝のほうがいいね。グレープたちはやさしくするとすねることがあるから気をつけな。」――「ありがとう、おばあちゃん。」――「気をつけな、勇気は命取りになることも、あるんだからね。」エンジンがかかる音がして、プロペラが回る音が微かにした。――「魔法と科学だ。」フランソワは言ってハシゴを登る。――「また会おう。」フリーダは親指を立てる。――「行ってきます。」エリザベスもそうする。――そうだ、これはすべてまやかしだった。エリザベスはあとで気づくだろう。この夢はすべて魔法なのだ。
――こうして空飛ぶ船、スクータ号は発進した。――「すごいわ。」向こうからは見えない窓はこちらからは見える窓だった。光学偽装の空飛ぶ船は外からは誰にも見えない。――「道具の説明をしなきゃならない。」フランソワは言ったがエリザベスは気づかない。――「・・・仕事なんだけどね。」――ちょうどそのころ、タリフ岬の女たちの神殿では、酒神信女たちがまたグレープたちをイジメていた。――「ひいっ!」と、捕まったばかりのアンセルモは悲鳴を上げた。――「とんでもないことになるぞ、お前ら。」アンセルモは言った。――「グーグー鳥が飛んでるんだからな――俺たちを怒らせるなよ。」しかし酒神信女たちは笑っていた。――神さまのしもべ・・・。
しもべはさらなるしもべを要するもの、官僚機構の毒物とはこういうものだ。酒神信女のアルデバランは言う。――「お前らがワインになれば喜びが増える――それで充分だろう?」――やっぱり嫌な奴、そしてアンセルモはやにわに走る!――そしてやっぱり転ぶ。球体に短い腕と脚、グレープたちは走れば大抵転ぶ。転がったほうが速いのだ。――そしてひとりの足が転がる彼を器用にすくい、そしてパス!──それは胸、さらにパス!――絵に描いたように足から胸、胸から足――そして戻ってきたアンセルモをアルデバランはシュート!――「ぐう!」――これが最期?いや気絶しただけだった。――そしてグレープたちは腐るまで檻の中・・・これは運命?
壁に当たって気絶したアンセルモを足で転がしながら地下牢まで来ると、アルデバランはおかしな会話を耳にした。――誰かが言っている。――「グーグー鳥が飛んでいるからな、世界の終わりなんだ。」また誰かが言っている。――「あいつらは終わるんだよ――そして俺たちもな。」また誰か。――「メシアが来るんだろう?メシアがさ。もの凄くわがままだってな。」また、――「あいつらみんな死ねばいいのにな。それにしても俺たちが生き残ったら・・・俺たちは悪者になるのか?」言った。――「生き残って悪者はないだろう?」また、――「神さまに見棄てられて死んだ奴は大体、善人になる。そして悧巧に生き残るのはいつも悪者だけだ。」哲学?
下らない会話だと彼女は思ったが、また色欲に火がついていくつか食べることにした。神さまは本当に残忍で、そのしもべたちはもっとそうなる。アンセルモを檻へぶちこむと、アルデバランは言う。――「お前、面白いな。」彼女はまた獲物を見つけた。――「お前、来い。」グレープたちは顰め面、また不条理に向きあう。酒神信女たちは神さまのしもべで、それだから自らを偶像化したが、さてヒューマニストとはこういう生きものではないか?――酒神信女たちは間違いなく野蛮。――「ふん、何言ってんだ、この女。」勢いに任せてひとりのグレープが言ってしまった。――「お前もだ。」――ああ・・・このようにして運命は決まってしまう。運命は生活の傷。
このようにグレープたちは苛まれていた。――そして運命は1組の男女を遣わすだろう。それはまったく決まりきって破壊であり、一応は人間たちの代表だ。そして彼女と彼はこのころ眠りに就いていた。あまりに変化に富んだこの1日は長すぎた。――変化のない変化、彼らの「良心」はあまりに強力で、他を寄せつける何もない。彼らは完全な殺戮と破壊を欲し、この旅を継続するはずだった。革命などというものは極めてやさしいものである――そうではなくて殺戮と破壊、あらゆる価値の根本的破壊、彼らはこれを欲していたのだ。その妄りがましい人間の夢は愉しすぎた。彼らはそしてユートピアを構築するだろう――ほかには誰もいないという・・・?
神さまはこのふたりを遣わせたのだ。そしてふたりは神さまをも破壊する・・・。
グレープたちは明らかに謎だった。グレープたちはすべてマフィアである。彼らは大抵、麻薬を売っている。彼らはいくつもの政治組織に介入し、自らのために政治家を働かせ、自らのために票を動かしている――要するに自らの利権を護持しているのだ。マイノリティは屡々極めて狡猾になる。グレープたちは悪魔との契約者であり、ちょっとした魔法使いである。彼らには昔の被差別階級、あるいはまた外国人、要するに組織の「余剰」になりやすいタイプが多い。タリフ岬の彼らは猛牛の王国の民だった。彼らは悪魔と契約して啓蒙されたが、その王国の民の多くは三位一体教の神を崇拝し、深くはその神に依存していたのである。――神・・・。
おそろしく近代的な彼らは自然学者になった者たちだ。彼らは自然の恋を思い知った。案外、近代主義の瓦礫の中から生まれたのだが、人一倍好戦的で、明らかにやることが性急で、やはり突っこんで死にやすい。――啓蒙はさて、新しい神学だったのだろうか?理由は彼らの新しい神になったか?充分理由の法則に基づき啓蒙は確かに数々の改革を成し遂げたが、基本的に専制を嫌い、権力を分立させ、そして立憲主義を打ち立てるのが啓蒙だ。法規による比較的自由が結局、啓蒙の自由となる。啓蒙はさらに政教分離を推し進める。しかし奇妙な啓蒙が奇妙なカリスマを打ち立てたことも確かにあった。「立法者」は本来、啓蒙の敵ではなかったか?
ピノチェト山上空でふたりは待機していた。パラシュートで劇的に降下しようとエリザベスは言いはじめた。まわりは止めたが、エリザベスはわがままだった。――「死んでも知らないよ。」フランソワはあきらめて呑気。――「平気。」エリザベスは自信たっぷりだ。――怖いものを凌駕する、これはエリザベスの旅の目的でもある。――そしてスクータ号の後部が開いてふたりはジャンプ!ふたりにはもう怖いものがない。びゅうびゅうと風が吹いて、ぐんぐんと地上が近づいてきた。意識が朦朧としたがふたりは成功、ちょうど山の中腹辺りに着地した。――するとすぐさまグレープたちがやってきた・・・と、ひとりが転んでまた山肌をごろごろ転がる。――グレープ・・・。
――「ハイ!」大袈裟に明るい声でエリザベスは言った。――「平気なの?」――「何が?」――「銃、持ってるよ。」――「平気よ、わたし預言者だから。」『農事暦』を取りだしてふたりは彼らに近づいていく。――「・・・何だ、あいつら?」小銃を持ったヒルベルトは言った。――「預言者じゃないか?交渉人?」もうひとり、ラウルは言った。転がったペペは合流。――「何だ、あいつら?」そしてふたりは近づいてくる。――「止まれ。」小銃を向けてヒルベルトは言った。――「終わりの日が来る・・・ルウェリンの胤、スノーフェイスは未来のことをよく知っている。」エリザベスは言った。――「・・・旦那は今、悪魔の国だぜ?」ラウルは言った。――どういうこと?
――「あいつらはスノーフェイスの手下だ。」フランソワは葉巻を取りだし、その端をカット、そしてそれに火をつける。――「ふん、休戦だな。」ペペは言った。そして3人は同様のことをする。――「一偏、吸わないとだめだよ。」フランソワは葉巻を渡す。そしてエリザベスは生まれて初めて葉巻を吸った。――「何だ、俺たちの仲間じゃないか。」ペペは言った。――「ふん、気をつけろ。あの女は赤の王国のクレイジーだ。鳥刺しの使い魔だぞ。」ヒルベルトは言った。――このようにして『農事暦』は用なしだった。彼らは皆、近代的な軍人なのだ。――キャンプでは族長が帳簿をつけていた。族長は一番大人しく、未来を語るのがとても好き――理想主義者なのだ。
族長のアウグストは迷っていた。――「交渉人が来たって?ふむ・・・。」――「本物らしいですよ。」ヒルベルトは言う。――「一応、指輪もはめていますからね。」――「しかしスノーフェイスからは何も聞いていない。」族長は淑やかにクロワッサンを千切って食べる。――「それに子どもだ。」――そのころ、ふたりは目玉焼きを頬張っていた。ふたりは2度目の朝食を堪えていた。――「余計な気遣いだと思うけどね。」フランソワは玉の輿、お嬢さまのお守りをしていた。グレープたちは近代的な軍隊で少し宗教的、フランソワは帯剣した貴族で実に無神論者、特に珍しいことではない。――「いいのよ、遣うだけ気を遣うわ。」――そして最後は殺戮・・・?
フランソワの珍しい剣をグレープたちは観ていた。――「高いぞ。」――「高いぞ。」グレープたちはさらにささやく。――「あいつらは部外者だ。」――「あいつらは俺たちの秩序を乱す。」こいつらは田舎者だ。――「あいつらをどうにかしろ。」――「俺たちは正義だ。」――「何でも許されている。」云々。このように未熟なネイションとして民族は極めて農民的だ。――そして飢餓民たちの戦争は膠着状態にあるようだった。――「どうも、はじめまして。」アウグストがやってきた。――「はじめまして。」ふたりは礼儀正しく言った。――「交渉人だと聞いておりますが・・・?」アウグストは言った。そしてエリザベスは指輪と、フリーダのメモ書きを見せた。
――「キンダーガルド女史のお知り合いですか・・・?」半信半疑、アウグストはメモ書きを見る。――「昨日着いたばかりです。」フランソワは言った。――「黒の王国に?」――「そうです。」エリザベスは言った。――子どもだからなめられている?――「お探しのルビー草は確かにあります。しかし不定期で生えるのです。強力な意志の作用があって、その分だけ生えるのです。戦争があれば必ず生えます、しかし・・・、」と、アウグストは口籠ってみせた。フランソワは言う。――「麓の神殿を襲撃しようと思っています。」――ほ!アウグストは驚いた。――悪魔なのか?――「ふたりで相談して決めたことなんです。ふたりで充分です。」エリザベスは言った。
――眼くらまし?――「ええ、ですが相手は神さまです。崇拝者が山のようにいて、それだけの敵を作ると思います。」アウグストは面倒だったのだ。アウグストに信心はない。――「下らない神さまは死ぬべきなのです。魔術と迷信は死ぬべきなのです。」エリザベスは言った。――「ふむ・・・では護衛をふたりつけましょう。」――こうしてふたりは支度を整えた。空飛ぶ船からさらに道具が降りてきた。参加者が増えたので、さらに素晴らしいことができるようになった。――「おい、すげえなこれ。」見えない服を着込んでペペは言った。さらに見えない爆弾を見えない袋につめ込んでラウルは言う。――「俺たちは神殺しだよ。あいつらに呪われる・・・。」
――あいつらとは?それは酒のゾンビたちだ。官僚機構の毒物で捨鉢と自棄を起こした半分ぐらい祭司のような信者たち。そして官僚機構、神さまに依存した暗黒の城は破壊されなければならない。神官どもは死ななければならない。ありもしない空想の寓話は壊滅すべきである。地上の社会福祉が充実すればそれは壊滅するだろう。――そして神殺しはとても気高い愉楽である。――「わたしたちは高貴なのよ。」エリザベスは言った。――「高貴な者には責務があるの。」宗教が奴隷を創るのではない――奴隷が宗教を創るのだ。そして奴隷を解放しよう。――「奴隷・・・、」エリザベスは言う。――「奴隷はみんな殺す!」ラウルとペペは黙っていた。
フランソワは傷ついたのか、うっかり神に祈りそう。――「まあ・・・いいじゃないか、みんな色々あるんだから。」――「ダ~メ~。」わがままなお口は言う。――「平和だわ、平和は解放なのよ。」そして力ずくのエリザベス、奴隷の死もまたその解放なのか?ともあれこの極めて進歩的な一味は行く。――「お気をつけて。」お昼のサンドウィッチを手渡して、アウグストは言った。――「必ずやり遂げてみせます。」エリザベスは敬礼をした。アウグストはお辞儀をしたい気分だったが、やむを得ず敬礼をした。――山のような面倒事が降りかかるだろう。――神を失くしたゾンビたち、彼らはどうなるのか?新しい神を創る狂信者になるのか?
多くの者はボロボロで生きるにあのような贋金を必要とするのだろうと、アウグストは考えていた。――「行ってらっしゃい。」――「行ってきます。」それは子どもを学校に送りやる純朴なパパの風景、あるいはまた主夫のようにアウグストはちょこねんとそこに残された。――そして凄まじい耕耘機のような音を立て、軍用車は走る。――「こんなんじゃ見つかるよ。」フランソワは言った。神殿のかなり手前、それを見下ろす小高い丘に車を止め、フランソワは仕上げたプログラムを配布、エリザベスはそれを一応読む。そして4人は神殿へ・・・そして信者たちがわらわらといる。今日は何かのお祭りがあるようだ。儀式のための祭壇が造られている。
酒の効果は宗教の効果にほぼ等しい。労働に疲れた人間たちがこうした対価を要求するのは当然のことだ。しかしエリザベスにはまったくナンセンスと映る。というのは、エリザベスは労働をしたことがなかったからだ。エリザベスのリアリズムはかなりニヒルだった。関心のないことをすることは「高貴な責務」に違反することだった。しかし啓示宗教は空想の報酬系で彼らの慰安となる。それでもよいのではないか、エリザベス?何を企む?――「あいつらはしかし挫けないな?」顔だけになったペペは言った。――「生への執着ってのはああいうものさ。」同様のラウルは言う。――「俺はあのままでもいいと思うけど。」しかし彼らはもう契約したのだ。
――「ともあれ行こう、黄昏時にはルビー草が咲いている。」フランソワは言った。――ルビー草は「変化の花」だ。露草は普通、朝にしか咲かないが、ルビー草は意志に呼応して咲き、そして二度と萎むことがない。――「変化」をして、もう「変化」することがない。要するにそれは意志のメモリアルであり、永遠のアンセムなのだ。――そして4人は仮面をつけ、顔も隠した。――「20分で仕上げる。」フランソワは言った。――そしてするすると林を抜け、4人は二手に分かれた。――「フランソワ、あいつらがいる。」エリザベスは言った。見れば酒神信女たちがグレープたちの皮をむいてお食事中・・・何て残忍な奴らだ。身体は大きく、中身はかなり阿呆。
阿呆――延々同じことを繰り返す一辺倒は阿呆である。――「あいつらは莫迦なんだ。いつも同じことしか起きないと思っている。」フランソワは言った。――そして襲撃が始まる。見えない彼らはするすると歩き、神殿へ入るとそこには清浄な空気、天井にはいくつもの寓話が描かれ、破壊して持ちだせばかなりのおカネになる。酒神信女たちの身長は16フィートもあり、その伽藍も広大だった。地下へと下る階段の手前、おかしなものに気づく・・・それはスニーカー。――「新入りのものじゃないか?」とフランソワ。――「逃げたのかも。」とエリザベス。――すると足音がした。酒神信女たちが来たのだ。――「神さまは来たか?」遠くで声がした。
スニーカーを持って階段を下ると見張りの信者たち、彼らの身体は明らかに腐っているが、欲求不満がそうさせるのだ。――「大変な空想の中を生きている。」とフランソワ。そしてふたりは気づかれないように歩き、さらに向こうへ・・・するとちょうどグレープたちのひとりがさらわれるところだった。――複雑なエリザベス。――「先に網だ。」フランソワは言い、エリザベスはうなずく。すると酒神信女がもうひとり階段を下りてくる。――「急ごう。」フランソワは駆けた。――「子どものにおいがする。」酒神信女のひとりが言った。――「誰だ?」もうひとり。――そして檻の前、エリザベスは急いで仮面を外す。グレープたちはどよめいた。――「誰かこっち来て。」
スニーカーを見て、ひとりが歩み出る。――「お口開けて。」アンセルモは疑惑、スニーカーを受けとる。――「あ~ん。」アンセルモはスニーカーを履こうとする。――「――口!」やにわにアンセルモの顎をつかみ力ずくで口をこじ開け、エリザベスはそこにメモ書きときれいに畳んだ光る霧の網を押しこむ。――「あいつらが消えたら、頃合いを見て逃げるのよ。」アンセルモは驚いてうなずいた。――そのころ、ラウルとペペは爆弾を仕掛け終えた。――「よし。」とラウル。――「宝物庫だな?」とぺぺ。――当然の報い?――「おい、おい、そんなのプログラムにないだろう?」――「・・・いや、これは自然というやつだ。俺たちの力さ。」ラウルは・・・奇妙に納得した。
神殿の奥深く、エリザベスとフランソワは奇妙に猥雑な場所に出た。そこは彼らの図書室らしい。彼らの本はどれも巨大でふたりには読みにくいものだった。そして壁には奇妙な絵が飾られていた。――「例のドラゴンがいる。」フランソワは指さす。――それは「最終戦争」の図絵だった。夥しい数の天使たち、それを迎え撃つ同様の悪魔たち、人間たちは板挟み、ほとんど何もできずに死ぬ。――「あいつらも気にしているのかな?」エリザベスは聞いた。――「あらゆるものを破壊するっていうからね。中でも理由を悉く破壊する・・・国が消滅するってことなのかもしれない。」するとまた振動・・・どうもまた来たらしい。――「ふん、斬り捨てるいいチャンスだ。」
やにわにフランソワは構えた。フランソワの不思議な剣は風を操るシルフの力を持った剣なのだ。――「莫迦な奴ら!」効果的な声をエリザベスは上げる。酒神信女たちは怒る。――「いるぞ。」――すると踏みこんだふたりの足をフランソワは斬り落とす!――残忍?そしてふたりはどくどくと流れる酒神信女の真赤な血を越え、図書室をあとにする。――「ふん、お前らにちょうどお似合いだ。」フランソワは剣を鞘に納めた。――神殿の周辺も大騒ぎ、儀式のために迎えられた酒神は驚いた。――どうも誰かが侵入したらしい。そして信者たちは狼狽するばかり。――「もしものときには役には立たん奴らだな?」酒神は言った。
――「仕方ありません。ただの信者ですからね。」アルデバランは言った。
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