2020年12月25日金曜日

城~The Castle/ⅠAntinomy~5 おカネ

そのころ、檻の中のグレープたちは逃げはじめていた。アンセルモのよだれでぐちゃぐちゃになったメモ書きは一応読めた。――「これは何の思し召しだ?」ひとりが言った。――「日頃の振る舞いがよいからな、俺たちは。」もうひとりが言った。――こうしてこのマフィアたちは檻から消える。エリザベスの愛は深いのだ。――そのころ、ラウルとペペは宝物庫の前にいた。愚かな酒神信女(メナード)たちはここにも腐った信者たちしか置いていなかった。――「莫迦(ばか)な奴らだ。」言うとペペはスタンガンでふたりを痺れさせ、ラウルは彼らを縛りげる。ペペは扉に爆弾を設置する。――「いい気なものだな?――こういう日は雨でも曇り、曇りでも晴れだ。」ラウルは言った。

そしてペペは爆弾のスイッチを押した。――爆音がして、エリザベスとフランソワは驚く。――「仕事をしているな?」フランソワは深いため息。――「いいのよ。」甘やかされたからエリザベスは人にも甘い。――そして駆けだす酒神信女(メナード)たちに向けて仮面を外し、――「こっち!」――彼女の愛情は深い。――そして踏みこんふたりの足をフランソワは同様に処分!そして同様の台詞。――「お前らは莫迦(ばか)なんだよ。お前ら本当は、神さまを呪っているのにな。」――自然、そうだ、フランソワの神は自然なのだ。そしてエリザベスのそれも同様だった。ふたりは自然法の使い魔なのだ。――こうしてふたりは神殿を駆け抜け、軍用車のところまで来た。

キャンプに無線で連絡すると、――「みんな到着しましたよ。」アウグストは言った。光る霧の網は指定した別のそれにあらゆるものを転送させる。――しばらくしてラウルとペペがやってきた。――「ようがす。」ぺぺは敬礼をした。見えない袋の口には金品がごっそり。――「これであいつらも報われます。」ラウルは言った。――そして彼らもまた報われるのだった。運命の時は近づいていた。身体の腐った信者たちには悪いが、死んでもらうことになる――そう、これは「モラル」なのだ。――「わたしたちの法に遵い、あなた方は死ぬでしょう。天国では幸福が待っている・・・労働の(くびき)はもうありません。あなた方は酒に溺れ、ほとんど死んでいました。」

エリザベスは言った。――そしてボタンは押され、不届きな神殿は見事に大爆発!粉々にそれは噴き飛び、彼らのマナーは成就され、見事願いは叶った。実に神に近いものを彼らは感じていた。――感無量、エクスタシスに彼らは見舞われ、誤魔化(ごまか)しのために彼らは深く敬礼をしてみせた。ミッションはコンプリートされた。丘の上、彼らは不届きな至福に見舞われ、そして社会福祉への決意新たするのだった。――キャンプでは彼らが待ちかまえていた。――「よう!」アンセルモは言った。――「何やってんだ、お前?」ぺぺは言った。ペペはラウルのお友だち、そしてラウルはアンセルモの親戚だった。そして3人はお友だち。――血のつながり・・・。

市民政府は社会契約で創られるというが、進歩がその前件からまったく逃れられるということはまったくない。人間やその社会がまったく新しくなることはまったくない。――「で、俺たちの覚悟はどうなっている?」アンセルモは言った。――「いや、相変わらずカネのことさ。」ラウルは言った。アンセルモは聖職者だ。――「そうだ、彼女は預言者でカネになる・・・それでどうする?」アンセルモは言う。――「あの戦争が起これば、俺たちは負け犬になる。グーグー(どり)は天使を呼び、そして悪魔が復活しなければ、俺たちはジ・エンドだ。」ラウルとペペはげっそりとした。――「・・・最悪のチョイスしかないって、そういうことなのか?」ペペは言った。

アンセルモは答える。――「ああ、そのとおり、正しくはチョイスできるものの中で、最悪のものしかチョイスするに値しない。天使は俺たちを皆殺しにするだけだから、そうなるよりは悪魔をぶつけろと、そういう(ことわり)だ。」――「俺たちは天使にも悪魔にも殺されて、一層完全なジ・エンドを迎えるそうならないか?」ラウルは言った。アンセルモはらに答える。――「三巴(みつどもえ)は普通、膠着(こうちゃく)するんだが、何かの運命なのかよく知らん・・・ともあれ天使悪魔は敵対するのだ。必ず互いを完全に亡ぼそうとするそういうわけなのだ。」それにしても未来は暗いようだった。人間はまた暗黒の道を行くのか?──ちょうどそのころ、泉へ向かった兵士たちが帰ってきた。

アウグストは報告を聞いた。――「どうやら咲いたようです。」アウグストは分捕りを会計に回し、別の兵士たちは夕食のごちそうの準備をしていた。――今夜は宴だ。――「おふたりのおかげで資金にゆとりができました。彼らにも振る舞えます。」そして夕食のほかは何も振る舞わないだろう。――「ルビー草はこちらです。」アウグストは歩きはじめた。――長閑(のどか)な兵士たち、キャンプに近い泉、それはまこと彼らの有力な資金源だった。戦争の規模が拡大するほど、ルビー草は多く咲くのだ。――ルビー草の花弁は本物のルビーである。幻想的な泉の(ほとり)、それは2つ咲いていた。――「手柄が2つということですね?」――そういうことらしい・・・。

アウグストは言う。――「どうです、あのふたりを連れていきませんか?」貸しを作る気なのだろう――エリザベスは思った。――「いい気なものです。もうすぐ大きな戦争が始まるというのに、平気なのですか?」エリザベスは思惑買いをしたくなかったようだ。――「いえ、どうか、連れていっていただきたい。生活費はお支払いします。われわれは世界の終わりを回避したいのです。」アウグストは言った。――「あの伝説はかなりちぐはぐなものです。天使と悪魔を殺しあわせるというのは・・・さて、普通は天使が勝つと思います。天使は至極残忍――理由だからです。悪魔には突飛なことしかできません――それでは勝てないと思います。」

アウグストはその伝説に詳しいらしい。――「それだからわれわれは加勢しなければなりません――もちろん、悪魔にです。われわれも、戦わなければなりません。少しでも多くの情報を通じあわせなければなりません。――どうか・・・、」と、アウグストは小切手を取りだした。エリザベスは涙だ。――「それを受けとるわけにはいきません。」エリザベスは言った。――「きっと多くの武器が必要になると思います。それだからそれは取っておいてください。」アウグストは眼を円くした。――「では後払いにいたしましょう。超過分を請求していただければ結構です。」よく分からない交渉で、ともあれそういうことらしい。――戦士と乙女・・・。

――伝説、それは意義深い。伝説は人間の行動を定めている。伝説は一応の行動規範となる。どれほど(うつ)ろで空想的なお話も人間には、特に幼稚な人間には効く。――そしてルビー草は待っていた。木漏れ陽のさす幻想的な泉、茂みを分けるとそれは姿を現した。――「両方ともお持ちください。」アウグストは言った。――「万が一があっては困ります。大自然の女王には必ず蘇ってもらわなければ・・・困ります。」複雑なようだ。兵士たちは2つのルビー草を鉢植えに移す。――「完全な状態でなければならないのでしたね?」――「はい。」知らないことを彼女は請けあう。――「天使たちを殺す兵器は、スノーフェイスたちが造っているはずです。」

アウグストは請けあう。――「何卒(なにとぞ)、ご武運を。」――その夜、兵士たちはとても上手に歌い、そしてまた踊った。カスタネットは軽妙で、猛牛の王国はギリギリの生を克服したがっているかのようだった。その土地は政策の手違いでかなり痩せた。昔から政治は軽率な強権ばかり、人民はいつも苦労した。性を持つには豊かさが必要、そしてそれが中々手に入らない苛立ちや嘆きが、この軽妙で捨鉢気味の至ってムスリム的な舞曲を永らえさせたのかもしれない。――さて、こうして夜は明けた。――「おい、俺も連れていけよ。」アンセルモ。――「俺は物知りだぞ、とても役に立つ。」分捕りを期待しているらしい。ラウルは反照。――「この燭台(しょくだい)で3日半。」

見えない服に包んで隠しておいた分捕りを見せて、ラウルは言った。――「削れば5日だ。お前の物持ち次第だろうよ。」――「いや、だから、俺には知識があるんだって。交渉してみろよ。」ラウルは渋々請けあった。――「腹筋できる?」エリザベスは聞いた。――「いや、それぐらいは俺にもできる。」――「背筋は?」――「・・・いや、身体はいつも鍛えるって。」エリザベスは逡巡したが、自らの分捕りのように見えたので、取りあえず請けあった。――そして使えなければあとで棄てよう!そしてスクータ号は降りてきた。光学擬装を解いたスクータ号は銀色の流線形、エリザベスは初めて見た。――「お気をつけて。」アウグストはカスタネットを渡す。

――「これは絶え間ない踊りです。われわれは限界で考えなければなりません。」――「はい。」エリザベスはまたキャンディーをあげる。――「行ってきます。」またしてもエリザベスはアウグストをパパに仕立てた。――「行ってらっしゃい。」アウグストは言った。――そしてスクータ号はまた出発する。プロペラが風を巻き上げ、地上のグレープたちは敬礼した。――船内は急ぎ足。――「次は変化だ。」フリーダからの伝言。――「ジャイアントを倒す準備はまだできない。ちょっと遠いがブラフマンへ行きな。シルフたちがいる。金持ちになるんだよ、あいつらはがめついからね。」そして伝言は切れた。――「何か急いでいるようだったね?」フランソワは考える。

――「わたしたちは変化、わたしたちはお金持ちになる・・・。」エリザベスは不敵に笑った。要するにすることは決まりきっていて、そればかりの預言者だ。5人は襲撃を繰り返すことになる・・・人さらいの大人たちを皆殺しにするのだ。――そのころ、マカラ河の(ほとり)ではシルフたちが水浴びをしていた。ふたりのシルフは長い髪を水に浸した。――「わたしたちはお金持ちになる・・・預言者が現れるのよ。」そのひとり、スーは言った。――「とても大きな戦争がある・・・わたしたちは生き残れるのかしら?」もうひとり、エアリアは言った。朝の光は穏やかだったが、この土地の人間たちは孤児で、カーストの預言に即して働く――そしてふたりはどこ吹く風・・・

シルフたちは多くを知らない。――「預言者はとても攻撃的らしい。わたしたちより強いかもしれない。」スーは言った。――「子どもは意欲的に燃えるからよ。気をつけないと。」エアリアは言った。水は美しく澄んでいて、それは彼女たちが浴びる分だけを浄化したからである。エリザベスと同じく、シルフたちはきれいさっぱり何でも片づけようとする・・・シルフたちは気まぐれだ。シルフたちは何でも面白がっている。笑いが込み上げてきてふたりはしばらく笑っていたが、それを観ていた人々にはよく分からなかった。全裸のふたりは大衆の余興だった。平明に言ってふたりもまた何かの偶像で、心に欠けている。ふたりはシビアであり、ニヒルである。

そして狙いはふたりの髪の毛なのだ。空飛ぶ船の中ではトランプ遊びをし、お昼過ぎにカンダールを通過、しばらくして娼婦たちの土地に着いた。この土地の色欲は凄まじく、とてもお子さまの手に負えるようなものではない。そして5人は悪党からおカネを盗んだ。少し不道徳な振る舞いだったので、エリザベスは(むな)しい孤児たちに金品を少し分けた。孤児たちは働き者でほとんど教育がないが、どうにかする・・・つまり物を盗む。――専制、それは豊かで貧しい実りだ。大衆は模倣者だが、何でも模倣するわけではない。彼らは有力なものを模倣する。そして大衆がおよそ何でもするのは、専制がおよそ何でもするからだ。社会は社会的フラクタルである。

薄汚い通りを歩いていると、悦ばしいか、親分たちが現れた。――「あいつらだな?」ラウルは言った。――「奴らの屋敷にはもっとたんまりある。」ペペは言った。――「今度は銃を持っていかなければな。」アンセルモは言った。――人身売買はさて、どれほど儲かるのだろうか?児童たちへの諸行為はほとんど下らないことばかりだ。ブローカーたちは口ひげを生やしていたが、まさに色欲の塊、中身は矮小(わいしょう)錯乱だろう。――エリザベスは袋だたきにする。不道徳には慎重な不道徳を以てする――王室はいつもこうではないのか?5人はそして彼らの後をつけ、準備を整え、そして屋敷に侵入する。――するとどうだろう!子どもたちの屍体(したい)が6つ・・・。

エリザベスはふと憂鬱に繰られた。エリザベスの仕事は増えたのか?――そしてこれは夢なのだ。――気にするな・・・たっぷりの気慰みをしてエリザベスは「グミ銃」を取りだした。グミ銃の魔法のグミは相手の身体に浸透し、術者は相手を意のままに操れるようになる。グレープたちは金品を漁りに行き、エリザベスとフランソワは親分たちのもとへ、どうやら取引があるらしく、彼らはその準備をしていた。――車庫でグレープたちは感銘に浸る。そこには高級車がずらり。――「まったく売れる。」アンセルモは言った。――「しかしあいつらを仕留めなければならんのではないかな?」ペペは言った。――「しかし・・・どうするんだ、そのあとは?」

ラウルは言ったが、プランはどうもありそうだった。ラウルはそれを言わなかった。――「そんなことはどうにでもなる――ふふん、まあ、いい、それよりほかを探そう。もっとあるぜ。」聖職者は言った。――そして透明な3人は金目のものを根こそぎ奪った。腕時計や宝石、サングラスからドレスに至るまで、売れそうなものは容赦なく見えない袋へ。――「あと2、3件やれば、まあまあのカネになるな?」ペペは言った。――そのとき、ガタリと音がした。――「おう?」アンセルモが振り向くと女の子・・・。――「愛玩か?」ラウルは言った。女の子は怯えていた。ドレスが独りでに動いている。――「・・・気にするな。」聖職者は顔を出して言う。

 

――「俺たちは生きている――そして生きるとはつまり、気にしないということだ・・・。」





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