2020年12月25日金曜日

城~The Castle/ⅠAntinomy~3 盾と剣

ルウェリン・ショップ――とんでもないおもちゃ箱。――「来たね。」彼女の名はフリーダ・キンダーガルド、この土地と同じ家名を持つ彼女はたくさんのお友だちのお友だち、ルウェリン社の大株主で大銀行家、まったく何かの鳥という顔をして、彼女はエリザベスを観た。――彼女は鳥刺しという実は盗賊たちの親分のひとり、知らないことはほとんどない。――「お座り。」卓にはお紅茶、フルーツやお菓子がいっぱい、それにしてもおばあちゃんは何の価値もないという顔をして、エリザベスの顔をずっと観ていた。――「かわいいね、エリザベス。」――「どうも。」ふたりは腰かけた。――「お食べ。マッチ箱は、わたしは嫌いだよ。」フリーダは『世界辞典』を開いた。

地下水道の出口はなぜか屋敷の庭先にあり、黒い鎧の鳥刺したちが見張りをしていた。鳥刺したちはいつも鳥の仮面をつけている――そしてフリーダの顔は鳥のよう。――「どこまで話したんだい、フランソワ?」パウンドケーキを頬張るフランソワ、フリーダは眼鏡をかける。――「この土地の成り立ちと、ルウェリンのこと。」――「グーグー(どり)のこと。」エリザベスは割って入った。――「なるほどね、それで交渉人の使命についてはどうなんだい?」フランソワは・・・脂汗をかいているように見えた。――この人は怖いおばあちゃ?――「それはあとで話すって。」エリザベスは言った。――「やさしいね、フランソワ?」フランソワは深い沈黙、ただお紅茶をすする。

フリーダは立つ。――「人間にはずっと無垢でいることができない――いつかは使命に気づくものだ。とんでもない運命が待ちかまえていたら、何もしないわけにはいかないものだよ。」ショーケースから8角形の変わった箱を取りだし、彼女はそれを持ってきた。――「不思議なことは不思議なことさ。大切なのは気づかないこと。――事実を受けいれる・・・生きるコツだよ。」不思議な文字が書かれた8角形の箱、それはコンパスのようにも見える。――「真理の箱だ。針がこの方角を向いているときは真、それ以外のときは偽。」――「交渉人の記憶にすべて記されているんだ。」フランソワは使命を果たしたと言わんばかり。――そして真理は北北西・・・。

――「そのとおり、運命はすべて交渉人が知っていて、あとはそれを思い出すだけ。」フリーダは言った。また北北西。そしてエリザベスは沈黙。――「欺瞞(ぎまん)をしても事実は容赦ない。」コンパスは・・・南を向いた。フリーダはチェリーを1つ食べた。――「さて、仕事を始めよう。交渉人の証を、持っていると思うけどね?」フリーダは沈黙。――「・・・思い出せばいいんだ。」フランソワは言った。また北北西、エリザベスは少し顔を赤らめた。しかし落ちついて思い出すと・・・そう、ポシェットから指輪が。――「そうだ、そいつをここに置くんだ。」フリーダが指さすそれは真北、指輪をそこに置くと不思議な文字が光り、コンパスの針が勢いよく回りはじめた。

水晶の張られた8角形の中心の円は光りはじめた。――「思い出すのさ。」フリーダは『世界辞典』の「12の眼の龍」のページを開く。――「これは「大自然の女王」――あらゆる理由を破壊しつくす。こいつだけが頼みの綱だ。彼女を呼び出すにはアイテムがいる。」とフリーダ。――「イメージだ。それで残りのアイテムが分かる。すべてエリザベスの記憶にある――観たもの、聴いたもの、どこかにあるんだ。」とフランソワ。――そして沈黙・・・いつの間にかエリザベスは祈るように眼を(つぶ)っていた。――「・・・雨上がりの道、露草の根・・・ルビーの露草。」フリーダは好奇の眼を光らせ、フランソワは固唾(かたず)を呑んだ。フリーダはペンを執り、それを書きとり声に出す。

――「ルビー草。」コンパスは真北、そしてまた回る。――「13の(まゆ)、羽子板の月、三日月の下・・・お城?」――「とても臆病な()(まゆ)、白金の(まゆ)。」また真北、また回る。――「足跡、(さめ)、爪の跡、血まみれ・・・山の奥?」――「鮫虎(さめとら)の爪。」――「日暮らしの月(せみ)の鳴き声、夜空に月、満月・・・女の声、髪の毛。」――「シルフの髪の毛。」――「恋・・・色恋、嘘つき、贋物(にせもの)・・・歯形?靴ひも・・・棍棒?」――「ジャイアントの牙。」――「・・・深淵(しんえん)、恋の終わり、夢・・・水?光る水、風の吹く水。」――「アプスーの吐息。」――「・・・剣?炎・・・闇を裂く、復活する、イノヴェーションをする・・・もう一度。」――「不死鳥の羽根――ふむ、ちょっと難しいかもしれない。」

フリーダは鳥刺しに算盤(そろばん)を持ってこさせた。――「計算機よりこっちのほうが早いんだよ。」眼鏡をかけなおし、恐ろしい凝視(ぎょうし)と恐ろしい指、そして番号を書き、場所を記す。――「もの凄い記憶力ね、おばあちゃん?」エリザベスは言った。――「いい気なもんだよ。交渉人はあんたなんだからね。」さらに数字を書く・・・予算だ。――「これは大変な額になるね。軍隊をいくつか動かさなければならない。ジャイアントは手強い。」――「・・・あいつらは見かけだけだと思う。」フランソワは言った。――「恋人探しかね?」フリーダは言って『世界辞典』をめくる。――「あいつらはすぐに恋をするんだ。心の中で負けるってことさ。」フランソワは言った。

――「それは鋭いご意見だね。」儀礼的にものを言い、フリーダは眼鏡を外す。――「最後の不死鳥の羽根ってのはね、どこにあるか分からない。」――「ほかはすべて分かるの?」――「もちろん、わたしは物知りだからね・・・。」・・・と、また間が空いた。今度は気づいたので、彼女はまた瞑想・・・そして鳩時計が午後2時を報せる。グーグー(どり)一旦帰る。――「・・・輪っか。」――「輪っか?」フリーダは言うと心当たりを探す。――「ウロボロスかね?」――「そうかもしれない。尻尾をくわえて生きる。おじいちゃんがいっぱい・・・いる。――扉・・・ルウェリンの扉。」――「ルウェリンの子孫なんじゃないのかな?おじいちゃんがいっぱいだろ?」フランソワは言った。

――「おばあちゃんもいるかもしれないがね。――まあ、いい、取りあえず見に行こう。」そしてフリーダはメモ書きを鳥刺しに渡す。その鳥刺しは棚から光る霧の網を取り、それを広げ、そしてそこへジャンプ――すると消えた。――「あの網も持っていきな。」フリーダはまたショーケースから道具をいくつか持ってきた。――「気になるのは勇気だよ――本当にそれだけだ。」戸棚からも道具、さらにリュック、さらに金貨をごっそり。――「いいんですか、こんなに?」――「いいんだよ、世界の平和のため。」フリーダの眼は輝いていた。エリザベスは考えて、ポシェットからキャンディーを取りだす。――「ありがとう――さあ、出発だ。」フリーダは大急ぎ。

リュックに道具を入れて庭に出ると、ハシゴが1つ、その上に何かある。かなり長いハシゴだ。その両脇に鳥刺し。――「まずはルビー草が適当だね。一番楽だ。」――「はい。」エリザベスはメモ書きと『農事暦』と『世界辞典』を受けとる。――「フランソワは強いから頼りになる。あとは自分で考えること。」――そのとき、はぐれたグーグー(どり)がどこからかやってきた。鳥刺しは仕込み槍を取りだし、フランソワは剣の(つか)に手をかけた。エリザベスはそれを制止する。――「どういう意味だい?」フリーダは言った。――「わたしを見にきたんだと思う。」エリザベスは直観を述べた。――「天使がね。」疑り深いフリーダが見守る中、長い脚のグーグー(どり)は庭へと降りた。

エリザベスが手招きすると、グーグー(どり)は跳ねてこちらへやってきた。この「跳ねる」という行動はエリザベスの気を惹くようだった。――「眼が金色なら怒っていない。」フリーダは言った。グーグー(どり)孔雀(くじゃく)と鶴を合わせたような生きもの、恐ろしい奇声を上げ、閃光と衝撃波を放つ魔法使いの鳥だ。怒ると眼が紫色になる。――それは・・・少しずつ金色に変わっていった。エリザベスが喉をさするとおそらくの彼女はかわいげな声を出す。――「この鳥は天国の使い、世界の終わりを報せる。」フリーダは言った。――「きっとみんなの夢なんだと思う。みんな世界が変わることを願っている。」エリザベスは言った。――「・・・いい気なもんだよ。」フランソワは言った

――「とんでもない独善が蔓延(はびこ)る。」フリーダは言った。――すると1つのヴィジョン、おそらくグーグー(どり)が伝えたもの、エリザベスはしばらく棒立ち。――「・・・洞窟に何か映ったかい?」フリーダには気になるようだった。――「・・・うん、よく分かった。」エリザベスが言うと合点したのかグーグー(どり)はまた跳んで退()がった。一瞬、彼女は不敵な笑みを浮かべたように見えた。――そして彼女は飛び立つ・・・空中で閃光を一度放ち、そして空の向こうへ。――「たくさんの天使が降りてきて、メチャクチャな破壊をする。人間は斬り刻まれ、結局勝ち目がない戦・・・途方に暮れて、そして神さまは来ない・・・なぜならそれは神さまの仕業だから。」エリザベスは言った。

――中世の神学?ハプニングは数知れず、人間は進歩の道を行くが、かなりのものを棄ててしまう。――そしてこの夢は何か?エリザベスは考えこんだ。本当に彼女の観たもの、聴いたもの、素材的にはそれだけなのかもしれない。ギリシャの神話、ローマの神話、キャロルの物語、スティーブンソンの物語、チョーサーの物語、そして何よりシェイクスピアの物語、ハリウッドの映画、Xboxやプレステのゲーム、コミックやアニメーション、そして『バイブル』、『クルアーン』、インド神話、中国の八卦(はっけ)の技術、歴史の素養もいくらか積んで、それらが渾然一体、グローバルな寓話となってこの夢を表しているのだ。――「さて、行こう。」フランソワは言った。

ハシゴの向こうに正方形の穴がある。――「どうやって浮いてるの?」――「魔法だよ。」フランソワは言った。――「タリフ岬までは2時間、交渉は明日の朝のほうがいいね。グレープたちはやさしくするとすねることがあるから気をつけな。」――「ありがとう、おばあちゃん。」――「気をつけな、勇気は命取りになることも、あるんだからね。」エンジンがかかる音がして、プロペラが回る音が微かにした。――「魔法と科学だ。」フランソワは言ってハシゴを登る。――「また会おう。」フリーダは親指を立てる。――「行ってきます。」エリザベスもそうする。――そうだ、これはすべてまやかしだった。エリザベスはあとで気づくだろう。この夢はすべて魔法なのだ。

――こうして空飛ぶ船、スクータ号は発進した。――「すごいわ。」向こうからは見えない窓はこちらからは見える窓だった。光学偽装の空飛ぶ船は外からは誰にも見えない。――「道具の説明をしなきゃならない。」フランソワは言ったがエリザベスは気づかない。――「・・・仕事なんだけどね。」――ちょうどそのころ、タリフ岬の女たちの神殿では、酒神信女(メナード)たちがまたグレープたちをイジメていた。――「ひいっ!」と、捕まったばかりのアンセルモは悲鳴を上げた。――「とんでもないことになるぞ、お前ら。」アンセルモは言った。――「グーグー(どり)が飛んでるんだからな――俺たちを怒らせるなよ。」しかし酒神信女(メナード)たちは笑っていた。――神さまのしも・・・

しもべはさらなるしもべを要するもの、官僚機構の毒物とはこういうものだ。酒神信女(メナード)のアルデバランは言う。――「お前らがワインになれば喜びが増える――それで充分だろう?」――やっぱり嫌な奴そしてアンセルモはやにわに走る!――そしてやっぱり転ぶ。球体に短い腕と脚、グレープたちは走れば大抵転ぶ。転がったほうが速いのだ。――そしてひとりの足が転がる彼を器用にすくい、そしてパス──それは胸、さらにパス――絵に描いたように足から胸、胸から足――そして戻ってきたアンセルモをアルデバランはシュート!――「ぐう!」――これが最期?いや気絶しただけだった。――そしてグレープたちは腐るまで檻の中・・・これは運命?

壁に当たって気絶したアンセルモを足で転がしながら地下牢まで来ると、アルデバランはおかしな会話を耳にした。――誰かが言っている。――「グーグー(どり)が飛んでいるからな、世界の終わりなんだ。」また誰かが言っている。――「あいつらは終わるんだよ――そして俺たちもな。」また誰か。――「メシアが来るんだろう?メシアがさもの凄わがままだってな。」また、――「あいつらみんな死ねばいいのにな。それにしても俺たちが生き残ったら・・・俺たちは悪者になるのか?」言った。――「生き残って悪者はないだろう?」また、――「神さまに見棄てられて死んだ奴は大体、善人になる。そして悧巧に生き残るのはいつも悪者だけだ。」哲学?

下らない会話だと彼女は思ったが、また色欲に火がついていくつか食べることにした。神さまは本当に残忍で、そのしもべたちはもっとそうなる。アンセルモを檻へぶちこむと、アルデバランは言う。――「お前、面白いな。」彼女はまた獲物を見つけた。――「お前、来い。」グレープたちは(しか)(つら)、また不条に向きあう。酒神信女(メナード)たちは神さまのしもべで、それだから自らを偶像化したが、さてヒューマニストとはこういう生きものではないか?――酒神信女(メナード)たちは間違いなく野蛮。――「ふん、何言ってんだ、この女。」勢いに任せてひとりのグレープ言ってしまった。――「お前もだ。」――ああ・・・このようにして運命は決まってしまう。運命は生活の傷。

このようにグレープたちは苛まれていた。――そして運命は1組の男女を遣わすだろう。それはまったく決まりきって破壊であり、一応は人間たちの代表だ。そして彼女と彼はこのころ眠りに就いていた。あまりに変化に富んだこの1日は長すぎた。――変化のない変化、彼らの「良心」はあまりに強力で、他を寄せつける何もない。彼らは完全な殺戮(さつりく)と破壊を欲し、この旅を継続するはずだった。革命などというものは極めてやさしいものである――そうではなくて殺戮(さつりく)と破壊、あらゆる価値の根本的破壊、彼らはこれを欲していたのだ。その妄りがましい人間の夢は愉しすぎた。彼らはそしてユートピアを構築するだろう――ほかには誰もいないという・・・?

 

神さまはこのふたりを遣わせたのだ。そしてふたりは神さまをも破壊する・・・。




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