グレープたちは明らかに謎だった。グレープたちはすべてマフィアである。彼らは大抵、麻薬を売っている。彼らはいくつもの政治組織に介入し、自らのために政治家を働かせ、自らのために票を動かしている――要するに自らの利権を護持しているのだ。マイノリティは屡々極めて狡猾になる。グレープたちは悪魔との契約者であり、ちょっとした魔法使いである。彼らには昔の被差別階級、あるいはまた外国人、要するに組織の「余剰」になりやすいタイプが多い。タリフ岬の彼らは猛牛の王国の民だった。彼らは悪魔と契約して啓蒙されたが、その王国の民の多くは三位一体教の神を崇拝し、深くはその神に依存していたのである。――神・・・。
おそろしく近代的な彼らは自然学者になった者たちだ。彼らは自然の恋を思い知った。案外、近代主義の瓦礫の中から生まれたのだが、人一倍好戦的で、明らかにやることが性急で、やはり突っこんで死にやすい。――啓蒙はさて、新しい神学だったのだろうか?理由は彼らの新しい神になったか?充分理由の法則に基づき啓蒙は確かに数々の改革を成し遂げたが、基本的に専制を嫌い、権力を分立させ、そして立憲主義を打ち立てるのが啓蒙だ。法規による比較的自由が結局、啓蒙の自由となる。啓蒙はさらに政教分離を推し進める。しかし奇妙な啓蒙が奇妙なカリスマを打ち立てたことも確かにあった。「立法者」は本来、啓蒙の敵ではなかったか?
ピノチェト山上空でふたりは待機していた。パラシュートで劇的に降下しようとエリザベスは言いはじめた。まわりは止めたが、エリザベスはわがままだった。――「死んでも知らないよ。」フランソワはあきらめて呑気。――「平気。」エリザベスは自信たっぷりだ。――怖いものを凌駕する、これはエリザベスの旅の目的でもある。――そしてスクータ号の後部が開いてふたりはジャンプ!ふたりにはもう怖いものがない。びゅうびゅうと風が吹いて、ぐんぐんと地上が近づいてきた。意識が朦朧としたがふたりは成功、ちょうど山の中腹辺りに着地した。――するとすぐさまグレープたちがやってきた・・・と、ひとりが転んでまた山肌をごろごろ転がる。――グレープ・・・。
――「ハイ!」大袈裟に明るい声でエリザベスは言った。――「平気なの?」――「何が?」――「銃、持ってるよ。」――「平気よ、わたし預言者だから。」『農事暦』を取りだしてふたりは彼らに近づいていく。――「・・・何だ、あいつら?」小銃を持ったヒルベルトは言った。――「預言者じゃないか?交渉人?」もうひとり、ラウルは言った。転がったペペは合流。――「何だ、あいつら?」そしてふたりは近づいてくる。――「止まれ。」小銃を向けてヒルベルトは言った。――「終わりの日が来る・・・ルウェリンの胤、スノーフェイスは未来のことをよく知っている。」エリザベスは言った。――「・・・旦那は今、悪魔の国だぜ?」ラウルは言った。――どういうこと?
――「あいつらはスノーフェイスの手下だ。」フランソワは葉巻を取りだし、その端をカット、そしてそれに火をつける。――「ふん、休戦だな。」ペペは言った。そして3人は同様のことをする。――「一偏、吸わないとだめだよ。」フランソワは葉巻を渡す。そしてエリザベスは生まれて初めて葉巻を吸った。――「何だ、俺たちの仲間じゃないか。」ペペは言った。――「ふん、気をつけろ。あの女は赤の王国のクレイジーだ。鳥刺しの使い魔だぞ。」ヒルベルトは言った。――このようにして『農事暦』は用なしだった。彼らは皆、近代的な軍人なのだ。――キャンプでは族長が帳簿をつけていた。族長は一番大人しく、未来を語るのがとても好き――理想主義者なのだ。
族長のアウグストは迷っていた。――「交渉人が来たって?ふむ・・・。」――「本物らしいですよ。」ヒルベルトは言う。――「一応、指輪もはめていますからね。」――「しかしスノーフェイスからは何も聞いていない。」族長は淑やかにクロワッサンを千切って食べる。――「それに子どもだ。」――そのころ、ふたりは目玉焼きを頬張っていた。ふたりは2度目の朝食を堪えていた。――「余計な気遣いだと思うけどね。」フランソワは玉の輿、お嬢さまのお守りをしていた。グレープたちは近代的な軍隊で少し宗教的、フランソワは帯剣した貴族で実に無神論者、特に珍しいことではない。――「いいのよ、遣うだけ気を遣うわ。」――そして最後は殺戮・・・?
フランソワの珍しい剣をグレープたちは観ていた。――「高いぞ。」――「高いぞ。」グレープたちはさらにささやく。――「あいつらは部外者だ。」――「あいつらは俺たちの秩序を乱す。」こいつらは田舎者だ。――「あいつらをどうにかしろ。」――「俺たちは正義だ。」――「何でも許されている。」云々。このように未熟なネイションとして民族は極めて農民的だ。――そして飢餓民たちの戦争は膠着状態にあるようだった。――「どうも、はじめまして。」アウグストがやってきた。――「はじめまして。」ふたりは礼儀正しく言った。――「交渉人だと聞いておりますが・・・?」アウグストは言った。そしてエリザベスは指輪と、フリーダのメモ書きを見せた。
――「キンダーガルド女史のお知り合いですか・・・?」半信半疑、アウグストはメモ書きを見る。――「昨日着いたばかりです。」フランソワは言った。――「黒の王国に?」――「そうです。」エリザベスは言った。――子どもだからなめられている?――「お探しのルビー草は確かにあります。しかし不定期で生えるのです。強力な意志の作用があって、その分だけ生えるのです。戦争があれば必ず生えます、しかし・・・、」と、アウグストは口籠ってみせた。フランソワは言う。――「麓の神殿を襲撃しようと思っています。」――ほ!アウグストは驚いた。――悪魔なのか?――「ふたりで相談して決めたことなんです。ふたりで充分です。」エリザベスは言った。
――眼くらまし?――「ええ、ですが相手は神さまです。崇拝者が山のようにいて、それだけの敵を作ると思います。」アウグストは面倒だったのだ。アウグストに信心はない。――「下らない神さまは死ぬべきなのです。魔術と迷信は死ぬべきなのです。」エリザベスは言った。――「ふむ・・・では護衛をふたりつけましょう。」――こうしてふたりは支度を整えた。空飛ぶ船からさらに道具が降りてきた。参加者が増えたので、さらに素晴らしいことができるようになった。――「おい、すげえなこれ。」見えない服を着込んでペペは言った。さらに見えない爆弾を見えない袋につめ込んでラウルは言う。――「俺たちは神殺しだよ。あいつらに呪われる・・・。」
――あいつらとは?それは酒のゾンビたちだ。官僚機構の毒物で捨鉢と自棄を起こした半分ぐらい祭司のような信者たち。そして官僚機構、神さまに依存した暗黒の城は破壊されなければならない。神官どもは死ななければならない。ありもしない空想の寓話は壊滅すべきである。地上の社会福祉が充実すればそれは壊滅するだろう。――そして神殺しはとても気高い愉楽である。――「わたしたちは高貴なのよ。」エリザベスは言った。――「高貴な者には責務があるの。」宗教が奴隷を創るのではない――奴隷が宗教を創るのだ。そして奴隷を解放しよう。――「奴隷・・・、」エリザベスは言う。――「奴隷はみんな殺す!」ラウルとペペは黙っていた。
フランソワは傷ついたのか、うっかり神に祈りそう。――「まあ・・・いいじゃないか、みんな色々あるんだから。」――「ダ~メ~。」わがままなお口は言う。――「平和だわ、平和は解放なのよ。」そして力ずくのエリザベス、奴隷の死もまたその解放なのか?ともあれこの極めて進歩的な一味は行く。――「お気をつけて。」お昼のサンドウィッチを手渡して、アウグストは言った。――「必ずやり遂げてみせます。」エリザベスは敬礼をした。アウグストはお辞儀をしたい気分だったが、やむを得ず敬礼をした。――山のような面倒事が降りかかるだろう。――神を失くしたゾンビたち、彼らはどうなるのか?新しい神を創る狂信者になるのか?
多くの者はボロボロで生きるにあのような贋金を必要とするのだろうと、アウグストは考えていた。――「行ってらっしゃい。」――「行ってきます。」それは子どもを学校に送りやる純朴なパパの風景、あるいはまた主夫のようにアウグストはちょこねんとそこに残された。――そして凄まじい耕耘機のような音を立て、軍用車は走る。――「こんなんじゃ見つかるよ。」フランソワは言った。神殿のかなり手前、それを見下ろす小高い丘に車を止め、フランソワは仕上げたプログラムを配布、エリザベスはそれを一応読む。そして4人は神殿へ・・・そして信者たちがわらわらといる。今日は何かのお祭りがあるようだ。儀式のための祭壇が造られている。
酒の効果は宗教の効果にほぼ等しい。労働に疲れた人間たちがこうした対価を要求するのは当然のことだ。しかしエリザベスにはまったくナンセンスと映る。というのは、エリザベスは労働をしたことがなかったからだ。エリザベスのリアリズムはかなりニヒルだった。関心のないことをすることは「高貴な責務」に違反することだった。しかし啓示宗教は空想の報酬系で彼らの慰安となる。それでもよいのではないか、エリザベス?何を企む?――「あいつらはしかし挫けないな?」顔だけになったペペは言った。――「生への執着ってのはああいうものさ。」同様のラウルは言う。――「俺はあのままでもいいと思うけど。」しかし彼らはもう契約したのだ。
――「ともあれ行こう、黄昏時にはルビー草が咲いている。」フランソワは言った。――ルビー草は「変化の花」だ。露草は普通、朝にしか咲かないが、ルビー草は意志に呼応して咲き、そして二度と萎むことがない。――「変化」をして、もう「変化」することがない。要するにそれは意志のメモリアルであり、永遠のアンセムなのだ。――そして4人は仮面をつけ、顔も隠した。――「20分で仕上げる。」フランソワは言った。――そしてするすると林を抜け、4人は二手に分かれた。――「フランソワ、あいつらがいる。」エリザベスは言った。見れば酒神信女たちがグレープたちの皮をむいてお食事中・・・何て残忍な奴らだ。身体は大きく、中身はかなり阿呆。
阿呆――延々同じことを繰り返す一辺倒は阿呆である。――「あいつらは莫迦なんだ。いつも同じことしか起きないと思っている。」フランソワは言った。――そして襲撃が始まる。見えない彼らはするすると歩き、神殿へ入るとそこには清浄な空気、天井にはいくつもの寓話が描かれ、破壊して持ちだせばかなりのおカネになる。酒神信女たちの身長は16フィートもあり、その伽藍も広大だった。地下へと下る階段の手前、おかしなものに気づく・・・それはスニーカー。――「新入りのものじゃないか?」とフランソワ。――「逃げたのかも。」とエリザベス。――すると足音がした。酒神信女たちが来たのだ。――「神さまは来たか?」遠くで声がした。
スニーカーを持って階段を下ると見張りの信者たち、彼らの身体は明らかに腐っているが、欲求不満がそうさせるのだ。――「大変な空想の中を生きている。」とフランソワ。そしてふたりは気づかれないように歩き、さらに向こうへ・・・するとちょうどグレープたちのひとりがさらわれるところだった。――複雑なエリザベス。――「先に網だ。」フランソワは言い、エリザベスはうなずく。すると酒神信女がもうひとり階段を下りてくる。――「急ごう。」フランソワは駆けた。――「子どものにおいがする。」酒神信女のひとりが言った。――「誰だ?」もうひとり。――そして檻の前、エリザベスは急いで仮面を外す。グレープたちはどよめいた。――「誰かこっち来て。」
スニーカーを見て、ひとりが歩み出る。――「お口開けて。」アンセルモは疑惑、スニーカーを受けとる。――「あ~ん。」アンセルモはスニーカーを履こうとする。――「――口!」やにわにアンセルモの顎をつかみ力ずくで口をこじ開け、エリザベスはそこにメモ書きときれいに畳んだ光る霧の網を押しこむ。――「あいつらが消えたら、頃合いを見て逃げるのよ。」アンセルモは驚いてうなずいた。――そのころ、ラウルとペペは爆弾を仕掛け終えた。――「よし。」とラウル。――「宝物庫だな?」とぺぺ。――当然の報い?――「おい、おい、そんなのプログラムにないだろう?」――「・・・いや、これは自然というやつだ。俺たちの力さ。」ラウルは・・・奇妙に納得した。
神殿の奥深く、エリザベスとフランソワは奇妙に猥雑な場所に出た。そこは彼らの図書室らしい。彼らの本はどれも巨大でふたりには読みにくいものだった。そして壁には奇妙な絵が飾られていた。――「例のドラゴンがいる。」フランソワは指さす。――それは「最終戦争」の図絵だった。夥しい数の天使たち、それを迎え撃つ同様の悪魔たち、人間たちは板挟み、ほとんど何もできずに死ぬ。――「あいつらも気にしているのかな?」エリザベスは聞いた。――「あらゆるものを破壊するっていうからね。中でも理由を悉く破壊する・・・国が消滅するってことなのかもしれない。」するとまた振動・・・どうもまた来たらしい。――「ふん、斬り捨てるいいチャンスだ。」
やにわにフランソワは構えた。フランソワの不思議な剣は風を操るシルフの力を持った剣なのだ。――「莫迦な奴ら!」効果的な声をエリザベスは上げる。酒神信女たちは怒る。――「いるぞ。」――すると踏みこんだふたりの足をフランソワは斬り落とす!――残忍?そしてふたりはどくどくと流れる酒神信女の真赤な血を越え、図書室をあとにする。――「ふん、お前らにちょうどお似合いだ。」フランソワは剣を鞘に納めた。――神殿の周辺も大騒ぎ、儀式のために迎えられた酒神は驚いた。――どうも誰かが侵入したらしい。そして信者たちは狼狽するばかり。――「もしものときには役には立たん奴らだな?」酒神は言った。
――「仕方ありません。ただの信者ですからね。」アルデバランは言った。
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